文化祭4(当日)

 目の前の王子にぞっこん...目の前の王子にぞっこん

 目の前の天音にぞっこん....目の前の天音が好き


 幸太郎の頭の中ではそう変換されてゆく。そしてこれまでありとあらゆるシーンで弟の勝太郎に譲り、遠慮してきたことを思い返す。小学校の頃、朝着る服がかぶればそっと自分が変え、残り一つのシュークリームも譲ってきた。


 幸太郎の中で小さな自分が殻から弾け飛び出た瞬間であった。


 最近天音は自分にかまってくれる、自分に、自分を大事にしろといってくれる。

 今回ばかりは譲らない!そうあの事故的なチューがスイッチをオンにしたのである。


 ピンクドレスに金髪ドラァグクイーンは静かに語る。


「俺もだ」


「はい?何が?」キョトンとするのは銀髪王子 天音である。しかし、『俺もだ』に足りない頭をフル回転し理解したのか。


「えっえー?!ダメだ。こーちゃん きっとさっきので混乱してるだけだ。冷静に、冷静になって。普通の女子と恋愛しなきゃ」


「天音は普通じゃないのか……」

「…………」

 普通ではないであろう。極めてアブノーマルである。


「やだわ〜何この空気ぃ。天音は可愛いんだからチヤホヤされて当たり前よ。ところでっさっきのとは何かしら〜?」

 よほど気に入ったのか、終始オカマに徹する勝太郎であった。


「……チューした。目覚めの」


 ボソリと呟かれた天音の言葉に一気にオスに戻った勝太郎。


「は?どゆこと?!こう!どゆこと?」

「事故的だ。でも、俺はそれで気持ちがわかった」

「は?何言ってんだよ」

「ちょっと、ボリュームダウン!声がデカイ」


 結局助けどころか新たな問題を生みオカマバーを出る二人は、行き場なく屋上へ向かう。


「はあ……」

「ごめん 天音 変な話になって」

「いや……」

 とそこへ興奮冷めやらぬ勝太郎がやって来たのだ。

「天音!どっちだよ。俺ら二人ならどっちがいいんだよっ」


 天音は目の前にいる女装した二人を眺める。ボディコンと姫を。


「……幼馴染は幼馴染としか見れない。ない。」


 二人はバッサリ同時に玉砕したのである。


「あ、でも私はこーちゃんに……いや、その……こーちゃんに幸せになってほしい。もうちょい自己中に生きてほしい……」


「じゃあ……自己中になっていいなら、天音を諦めない」

 と小さく呟いた幸太郎だった。完全にオス化完了である。


 天音は残りの上演をパスしたい気分である。

 しかし、銀髪王子が話題を呼び三組前には列が出来、船越学級委員が整理券を配布する騒ぎになっていた。


 芝居の反響に嬉しそうな魔女も整理券の配布を手伝っている。

「はあ……」

 仕方なく、『ねっムリ姫』を二回上演した。キスシーンはかなり慎重にふりをしたのだった。ただ幸太郎は近づいてくる天音の顔に二度ドキッとしたのは確実である。


 文化祭終盤、天音には一緒に写真を撮りたい女子が列を作る。


 後片付けをしながら、吉高玲司のしつこい絡みは適当にあしらう天音であった。


「なんで、手滑ったの天音ちゃん!」

「知らん」


 船越学級委員は満足げであった。

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