文化祭1

「文化祭について意見のある人いますか?」

 と前に立つのは学級委員の船越ふなこしさんだ。


「居ないなら、投票で決まった芝居になりますよ!異論は?ないよね!んじゃ今から配るアンケートに答えてっ!分かりましたか!??」


 無反応なクラスにキレ気味の彼女は手際よく、用意していたプリントを取り出した。サラサラつやつや黒髪オカッパを振り乱しながらテキパキ配る。




「あいっ!回収ー!!」


 クラスの出し物は芝居『眠れる森の美女』となった。

 さて、ここからは配役や裏方の決め事である。


「うーん。裏方は皆で分担できるとして、やっぱり重要なのは役者。はい、姫役やりたい人ー!」

「………………」

「っやりたい人ー!!!!」


 船越さんはもうかなりキレていた。


「天音がいいと思います!」と誰かが言った。

 天音は冗談じゃないと口をあんぐり開ける。


「だったら僕は王子に立候補しちゃう〜」としゃしゃり出たのはイケメン吉高玲司だ。


 天音の隣から小さなため息が聞こえる。幸太郎だ。幸太郎は吉高玲司が天音に絡むのは好きでは無いのである。


 天音だって、吉高玲司と姫王子役などお断りである。

「私姫役しないですっ!」

「じゃあ他に居ませんか?推薦でもいいし」


「………………」


「なんとかやってよ。天音ー」「みたいみたいっ天音のねむり姫」


「じゃ!王子も推薦はありませんか?」と船越さんは言い出した。船越さんは天音が吉高玲司ウザい説を知っていたのだ。


 だが誰も何も言わない。

 船越さんは何としても、この時間内に配役は決めておきたい。日頃から学級委員としてクラスメイトの分析は欠かさない彼女は、天音と幸太郎の仲の良さは知っている。


「では、私が推薦します。水木君、あなたを王子に推薦します。」

「……いや 俺が王子なんて。コメディになるよ。俺は出なくていいし。木とかになってもいいし。」


 幸太郎からすれば悪くはないが、わざわざ人前で恥さらしながら天音と恋仲を演じる気はない。


「はい!投票ー!!!」船越さんは、吉高玲司VS水木幸太郎で投票をとる。



 結果は幸太郎であった。


 イケメンと美女のラブストーリーを見せられたって面白くもなんともない。クラスメイト達はパッとしないボケ野郎の王子に期待した。


 しかし、先程幸太郎が発したコメディという単語に反応したのは天音である。

 どうせ、やるなら楽しい思い出を幸太郎に味わってほしいのだ。主役として。


「はい!提案がありますっ。」

「どうぞ斉木天音さん」船越さんは意見大歓迎と、嬉しそうである。

「コメディにしてはどうですか。例えば男女逆転!私が王子。こーちゃんは姫!」

「それで行きましょう!!!皆さん異論は?」

「ないでーす!!」


 幸太郎がさっきより大きな溜め息を吐き出したのは言うまでもない。


 こうして二年三組は

『ねっムリ姫』を演じる事となる。

 早速、タイトル看板の製作が始まった。


 衣装準備は役者でやれとのこと。

 天音と幸太郎、そして魔女役の吉高玲司は放課後コスプレ衣装を探しに行くこととなった。




「うわあ。ガッチャガチャしてて訳分かんないな」

 幸太郎はこんな雑貨店には来たこともない。

「ったく。なんで僕が主役じゃないのさ。魔女だって~、黒いマントでいー?」

「とんがり帽子もいるでしょ。こーちゃんのお姫様選んであげる!」

 天音は幸太郎の姫姿にウキウキしていた。


「いいよ。俺のは最後で先に王子探そう」

「ほれまた、我が我がで行きなさい。見てよあいつ。必死で魔女衣装みてるじゃん」と天音の視線の先には中腰で魔女衣装二つ三つ手に取るイケメンが居た。


「分かった。じゃあそれぞれ自分の探すか」


 しかしその僅か数分後手にとった王子衣装を見た幸太郎が天音に注意する。

「こ、これはその変態プレイ用とかじゃない?」

「は?変態って?」

 パッケージをよく見るとたしかにそれっぽい写真と詳細が出ている。王子であるのに、ムチまでセットされている。


「あ......」


 気を取り直し、再度選び直しであった。

「これは?」

「それ、白タイツ.......ズボンのはないか。ピチピチすぎるぞ」

 幸太郎は親のように、天音に露出させないよう気をもんでいる。いや、人前でエロく見られたくない幼馴染心である。

「これならいいかな 銀髪王子セット」

「ああ」


 そして、姫ドレスはありとあらゆる種類があったがよりキモさを出したい天音はピンク一択であった。


「楽しみだね こーちゃん」

「あ、うん。」

「決まったー?」

 魔女も王子も張り切っているようだ。

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