週末の事

 ある週末二人はどこかにデートにでも行きたかったがバイトが夕方から入っていた。


 それまでの時間を水木家で過ごすことにした。

 まあどっちみち、片割れも家でゴロゴロしているだろうと天音はジュースやおやつを三人分持って訪れた。



「こーちゃん。あれっ。すごい家きれいじゃない?」

 張り切って幸太郎は朝から大掃除していたのだ。これまで何度も生活感あふれるこの家にお邪魔してきたのに急に改まっても仕方がないのだが、幸太郎は嬉しそうである。

 何故なら、大掃除する幸太郎がうざくなった勝太郎は出かけていったのだ。


「朝から大掃除した。そしたら、しょうが出ていった」

「ははっ居心地悪かったんだ。おばさんは?」

「親戚の法事」

「ふうん」

「…………」

 二人っきりだという事に気づいた途端、静かになる二人。


 とりあえずリビングに天音が持ってきたジュースを並べ、ソファに座る。

 どちらの口からも部屋に行こうとは出ない。誰もいない家の部屋にこもるなんて勇気はない。

 そんないい子ちゃん二人はリビングで静かに並ぶ。


 しかし天音は無表情でボーッとジュースを口に運んだり、テーブルの耳かきやティッシュ箱をぴしっと並べてみたりする幸太郎に質問する。


「ね、こーちゃん。今までで何回チューした?」


 幸太郎は細い目をパッと見開いて言葉を失う。その質問は言い換えれば元カノ杏里と何回キスしたかプラス天音との回数である。


「えっと、たいしてないよ」

「ふうん。十回は超えてるよね。じゃ五十回くらい?」

「…………」

「えっ百回超え?だとしたら半年は百八十日として二日に一回、いやそんな会ってなかったか……。いやもしかして、百は確実……え そうなの?」


「なんで、そんな気にしなくても……」

「気になる。だから今から百回チューする」

「はい?」


 天音は幸太郎の膝に手を付きチューをしてくるのだ。


「はいっ五回。はいっ次」

 微妙に雰囲気に欠ける体育会系のカウントである。


 だが何度もプチュッとしては離す天音が面白可愛く幸太郎もまんざらではない様子で天音を自分の膝に乗せてチュッチュする。


 ガチャッ


 幸太郎が勢いよく立ち上がった拍子に天音はソファにふっ飛ばされる。


「痛いってこーちゃんっ」「あ ごめん」


 その声だけを聞きリビングのドアを開ける手前で取っ手に手をかけたまま勝太郎は足を止めた。きっとものすごい展開を想像したのだ。


「さっきので二十回したかな?続きは後でね」


「おいっしょうか?」


 カチャとドアを開け、微妙な顔が除く。

 特に変わった様子なくソファに座る二人に安心したようだ。しかしそんな勝太郎から放たれた言葉に耳を疑うのだった。


「なっ。ユージ呼んだ?」

「……え?」

「今さっきそこに居たから」

「そこって?」

「簡単に言うとほぼ家の前」

「「…………」」


 言葉を失うが、天音はスマホを見て「あっ」と声を上げる。


「ユージにノートと問題集返すんだった」


 取りに来ると言われていたのに完全に忘れ危うくストーカー扱いをする所であった。

 しかし、幸太郎はなんでわざわざ休みの日に来るのかと気に入らない。この週末、言わば後三十時間ほど経てば学校で会えるのだ。そんな事より後二時間足らずで始まるバイトまでの貴重な時間を奪わないでくれと頭を抱える。


 ニセ彼氏をやめてもストーカーになる宣言した男である。

 二人っきりにするなど例えそれが道端だろうが公園だろうが危険である。


 慌てて出ていく天音に「あ!俺も行く」

「すぐだからいーよ」


 良くなど無いのだ。幸太郎は立ち上がるも追いかけて外へ出るなんて行動も取れず、玄関まで進んだぐらいで足を止めた。ご主人さまを見送った室内犬くらいである。

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