カップルの日々は小さな壁が点在する

 ピンポーン

「おはようございます」

「おはよう。ね 天音ちゃん そういうことでしょ?うちのあれと、そうゆうことでしょ?」

頷いた天音を見て朝から上機嫌の水木母さんはお隣さんに聞こえる声で叫ぶ。

「天音ちゃん来たわよー!!」


 水木母さんに言われ飛び出てきた幸太郎。朝から二人は歩いて登校する。

 勝太郎が便乗して来ないように早く登校する二人は付き合いだして数日は経過した。


「おはよっこーちゃん」

「おはよう 天音」



 幸太郎は天音の手を繋ぐ。

「おはよう 今日も早いね〜仲良しだね〜」

 近所のお年寄りもにこやかに見守る。

「ははは おはようございます」「おはようございます」


「天音、あの、学校で付き合ってますってどうやって宣言するんだろう」

「宣言したいの?」

「いや、そんな周りに知ってほしいわけじゃないけど、知らないのも……なんていうか その」

「また〜もじもじこーちゃんだ」

 と幸太郎にまとわりつく天音。


 しかし、学校が近づくと手を離し前を走る天音は

「ほらっ走って〜」


 二人は違うクラス。

 幸太郎が天音とゆっくり居られるのは昼休みくらいだ。


 だがこの数日、昼休みを二組で過ごす天音と幸太郎の周りにはユージ、杏里、勝太郎がいる。

 集団での会食状態である。


「天音、何だその弁当。しっかり食べないと」

 天音の小さな弁当にクレームを入れる幸太郎。


「じゃ、これあげるわ おかんの唐揚げ」

 とユージが天音の弁当箱に入れる。


 それを見た幸太郎は若干不機嫌である。

 すると今度は杏里がタコさんウィンナーを箸で突き刺し

「私やっぱり赤いウィンナーいらない。はいっこうたろう君」


 いやいや、もう皆さんそっとしてあげてはいかがだろうか。


「なあ 二人は付き合ってるやん?」

「うん」「ああ」

「なんかさ、みんなまだ俺と天音が付き合ってると思ってるんやけど」

「え」

「じゃそこ否定しろよ」と勝太郎がいうも。

「えー、なんかもったいないやん。もうちょっと余韻に浸らせて」


 余韻?意味はわからないがそのうち知れ渡るだろうか。

 たしかに校内で天音と幸太郎が二人で居ることはあまりない。



 帰り道、昼の弁当が発端で会話が減る二人。天音は時々幸太郎の横顔を見ては苛立ちを隠せないようだ。


「もっなんでこーちゃんが機嫌悪くなるの?」

「ん?機嫌悪くないけど」

「あー!その冷めた目 ひどっ」

 目が細いだけである。


「こーちゃんが杏里のウィンナー箸ごともらってパクって食べたんでしょ!自分の意思で。私は弁当箱にユージの唐揚げが乗ってきただけだから」


「ほんとに怒ってないよ。天音が何してもきっと俺は怒らない」


 本当だろうか、ユージの唐揚げグッサグサに箸で突き刺したい衝動に駆られていたのに、本当だろうか。


 怒らない宣言されるのも女子としては寂しいだろうに、幸太郎にそんな事は理解できないようだ。


「じゃ!これでもか!」

 天音はいたずらに幸太郎の背中に飛び乗り首に腕を回しロックする。

「ちょっと危ない!危ないから 天音、お……降りて……」

 顔を真っ赤にしぜぇぜぇ言いながら二人は公園へ立ち寄る。


 ベンチに座り特に話すことも無くぼーっとする幸太郎。

 天音は幸太郎をじっと見て頬にチュッとする。かれこれ三回目である。

 何を期待してかキツツキのようにチュッチュッしてくる天音が可愛くて仕方がない幸太郎は、天音の方に四度目のキツツキを唇で受け止めようとタイミングを見計らって向く。


 ベンチでチューをするその高校生カップルに、一人の三十代女性が近づく。


「すいません、子供達がみるんで、あの、すいませんが」


 ハッと公園を見渡すと幼稚園児が数名遊んでいた。ママさん代表がしびれを切らし、公然でいちゃつくなと言ってきたのだ。


「あ、すいません……。」

 チューを怒られるなんて人生初である。ここがもう少しファンキーな国であればきっと誰も気にはしなかっただろう。


 二人は公園を出て再び歩く。お互いの家には弟妹もいる。プライベートタイムも空間も限られたカップルであった。

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