ゾンビ園は閉園します

 幸太郎の唇が紫であることに気づいた天音も絶句する。分かっていないのは本人だけであった。


「はいっとりあえず一旦中止!」と危険なため村上先生と工藤学級委員が話し合う。


「ちょっと来い」

 ユージは幸太郎を屋上へ連行する。もれなく勝太郎もついていく。

 それを見た杏里も続いた。天音は衝撃で立ちすくみ、村上先生達に「大丈夫か」と椅子に座るよう言われる。



屋上にてイケメンニセ彼氏VSパッとしない幼馴染のバトル勃発か……。


「唇っ!」

「え?」

「紫やで」

「え 寒くないけど」

「あほか キスしたんか?天音に」

「ギリギリまで耐えたんだけど……」

「は?何が?」

「ギリギリまで腕力で耐えてたけど、心が耐えられなかった」

「……ほんま意味わからんわ」

「.......した したくてした。」


 後ろの二人が口に手を当てて驚いた。


「好きなんやな?天音のこと、ずっと好きやったんやな?」


「好きだ。ずっと。偽彼氏もうやめてくれ」


「それは、天音にきくから」


 また教室へ戻るユージ。


「天音ーっ!」とユージが叫ぶ。

 が天音は足を切ったらしく、保健室へ行き居なかったのだ。



 保健室での天音ゾンビは、頭はスプレーと逆毛と転倒事件により大爆発を起こしていた。頭の中も大爆発である。



 そこへ迎えに来たユージが廊下で徐ろに切り出した。

「足、大丈夫?」

「あ、うん」


「天音……俺にニセ彼氏辞めて欲しい?」と鼻にティッシュ突っ込んだゾンビユージが言う。


「……うん」


「はあ……ショック。じゃあ……あいつと付き合うん?」


「もーっどんどん質問しないでよ。頭爆発する」

 頭はすでに大爆発しているが、さらにその頭を掻きむしるのだった。


「あ ごめん。いつでもユージやっぱりカッコいいかもっ。やっぱりユージに抱きしめられたいーってなったら言いや!遠慮なく。待ってるから……。」


「……あのさ ごめんね。ニセ彼氏なんて頼んで」

「ありがとう」

「え?」

「嘘でも俺は楽しかった。でも、友達やで。友達まで止めたら俺気失うからな」

「うん」


 ユージと天音はぺちゃくちゃ話した後教室に戻る。

 そこには、工藤学級委員が前で頑張って声を張り上げていた。


「ゾンビ園は閉園いたします!よって皆さん好きに他の出し物を楽しんできてください」

 これは高校生活の悲しい思い出になりそうである。たった三名の客で閉演を迎えたなんて。

「…………」


 悲しみが染み出るような小さな背中で窓の布を剥がす村上先生。


 入口あたりに立つ勝太郎と杏里もボーッとしていた。屋上のやり取りを整理したのか二人はそのままユージをひっぱり他の出し物を見に行った。


 幸太郎がやって来る。トイレで唇を洗い紫を口周りにひろげてきたようだ。それを見た天音は笑い、メイク落としを付けたコットンで幸太郎の唇を拭く。



 幸太郎はじっと天音を見つめる。

「あ、天音」

「何?」

「さっきキスしたのは……わざとだ」

「……うん 知ってる」


 そうだ、天音もそれを拒否しなかったのである。


「今日一緒に帰ろう」

「いや」

「えっ」

 幸太郎はニセイケメン彼氏に負けたのかと思ったようだ。だが天音はイタズラに笑って続けた。

「またチューしてきそうだから」


 それを聞いた、工藤学級委員が天音の後で顔を真っ赤にしていた。全く関係ないのである。




 帰り道


 髪がまとまらなかった天音は、頭のてっぺんでお団子にしている。以前こんなヘアスタイルをすれば間違いなく鏡餅とでも言われそうだが、今は大変かわいいのである。


 そんな天音を見てはニヤける幸太郎。

 二人は公園に入る。鉄棒で斜め懸垂をしだした幸太郎。気合を入れているのか、天音はブランコに乗っている。

 かれこれ五分は経過しただろうか。


 幸太郎は、鉄棒をやめ、ブランコに近づいた。

 天音のブランコを鎖を掴んで停止させ、天音の前にしゃがみ込む。


「天音 俺は天音が好きだ。彼女として側にいてほしい、今からチューをする。嫌ならひっぱたいてくれ」


 幸太郎は唇を何度も、もごもご擦り合わせながら近づく。緊張しているのだ。もうその唇はカッサカサである。


 そしてブランコに座ったままの天音にチューッとした。

 ビンタを食らわさなかった天音をぎゅっと抱きしめた。


「私も。大好き こーちゃん」

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