期待と落胆

 時は流れ、すっかりカップルの邪魔は謹んで行動する天音は六十キロ台である。そろそろポッチャリと呼んで頂けるであろうか。


 相変わらずダンスサークルには欠かさず参加している。もはや主要メンバーであった。

 そんなある日、ひとりのダンサーこと、イケメン先輩が天音に声をかけた。


「あのさ、後で時間ある?ちょっと話あってさ」


 キターッ!!とでも言わんばかりに高鳴る胸。今回はまだ誰にも告白などされた事もない。

 いくら付添人だといっても乙女の天音にはたまにはキュンともさせて頂きたい年頃である。そのくらいは標準プランに組み込んでいただきたい。


「はい。あります 時間」


 精一杯頬の肉をすぼめ内側から歯で噛み、脇を閉じ身を小さく見せたのであった。





 サークル終了後解散し着替えを済まし、再び屋上のダンスサークル定位置にスタンバる天音。

 そこへやって来た、イケメン先輩 ヤッサンこと山根やまね


「わりいね。天音ちゃん」

「いえ」

「あのさ、誕生日いつ?」

「六月です.....六月じゅ」

「あっじゃあ後四ヶ月か」

「これさ、健康食品とか美容系の自社商品売る会社でさ着圧タイツとかすごいいんだよ。でさ十八歳から会員になれて、さらに紹介で……」


 パンフレット片手に時々ロン毛の前髪をさわりながら、饒舌なヤッサン。ぶん殴りたくなるであろう。

 天音はエンドレスに繰り広げられるネズミトークにガッカリしたのであった。


 無駄骨であった。

 トキメキながら前髪の流れ具合をトイレで確認した十五分前の自分が虚しい限りだろう。


 気を取り直し、天音はひとり寂しく下校する。


「はあ いや、歩こう」

 こんな時こそ電車に乗らず物思いに耽りながら歩くのも悪くないとでもおもったか二駅ウォーキングする事にした。




 だが、またもや見たくなかったものを見ることとなる。




 天音の視力2.0と1.5でしっかりと見えるその道の先には、抱き合うカップルが居たのだ。

 杏里の幸せに溢れたツインテールの横顔をしっかりと見た。

 こんな日に見たくないのである。


 抱擁を少し緩め、そのカップルはキスをした。


 だが、天音は完全に凍りつく。

 なぜにキスするまで気づかなかったか、相手の男は制服のカラーが違うではないか。

 普通にイケメンではないか。


 天音はそのポッチャリした太ももを静かに寄せながら、気付かれないよう後退する。

 とりあえず、あの道を回避するには来た道を戻り駅に向かうしかない。



 通学路を逆走する天音はすぐに、また良からぬ者とばったりする。幸太郎である。

 幸太郎は開いてるか閉じてるか分からないその目を更に細めながら天音の約五メートル向こうから向かってくる。


 天音は大手を振りながら視界を遮る。今回ばかりは自身の体を大きく見せるに徹したのだ。


「こーちゃんっこーちゃんっ」


 とりあえず小さく絞り出すような声で幸太郎の行く手を阻む。


「あれ 天音何してる?どこ行く?反対だぞ」


「あーあー」

 完全に言葉が出ない天音は、「こーちゃん 駅に行かなきゃ」と言いその場に座り込む。


「大丈夫か?天音っ。どうした!?」


 答えない天音に相当焦ったのか、幸太郎はまさかの天音をおんぶして駅へ向かった。

 幸太郎が力持ちか、はたまた天音の減量が着実に進んでいるのか定かではない。


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