水木家でご機嫌ななめな勉強会

「天音っ勉強会しよう」

といつもの調子で誘うのは幸太郎である。


「杏里に頼んだら?」


「さすがに杏里家には呼べない。」


「なんで?」


「母ちゃんビックリするし」


確かに幼馴染でもない美少女を彼女だと宣言し、部屋に連れ込むなど一大イベントであろう。しかし、勝手に家に上がり込むと杏里の怒りを買う恐れは大いにある。


「じゃあさ みんなでしよう。」


結局四人で水木家に集まる。

クリスマス会と同じメンバーの為軽くお邪魔しますを言い入る天音と杏里。

水木母さんの視線は天音オンリーに集中する。


「あらお嬢さん達いらっしゃい。天音ちゃん久しぶり。ちょっと痩せたんじゃない?大丈夫かい?」


「えっそうですか。嬉しい〜ははは」


「ダイエットなんてするもんじゃないわよっ。あ、幸太郎の弁当いつもありがとうね」


「はい?」


そうであった。水木母さんは天音が弁当を作っていると思い込んだままである。


「いやそれは……あ」

「ほらっ行くぞ上」


幸太郎がカットインする。余程恥ずかしいのだろうか。天音なら恥ずかしくないのだろうか。

いや、天音ラブすぎる水木母さんの気持ちを大切にしたいだけであった。水木母さんは天音を嫁さんにしたいのである。



それを間近にいた杏里が快く思うわけがない。

ぎこちない勉強会が幕を開ける。

しかし、いつもながらいい仕事をしてくれるのは片割れだ。


「天音、これは?」

「天音っじゃあこうゆうこと?」

「「天音!」」

「おいっ、こうは杏里にきけよ!」


とはいえ、ご機嫌斜めな杏里である。終始言葉数が減り笑いもしない。そんな彼女に天音が静かなる圧力を感じるのは否めない。


そして、天音に一瞬のスキに放たれたのは


「もう勉強会はやめて」と凍てつくような杏里の声であった。


「はいっ。了解」と天音は迅速かつ小さく返したのだった。

キューピッドたるもの、付添人たるものが邪魔しては意味がない。


帰りはカップルを見送り、勝太郎が天音を送る。


天音は気を使い過ぎて消費エネルギーはかなりいったのではないだろうか。もしかしたら杏里といればすぐ痩せられるかもしれない。晩御飯前にも関わらず空腹すら感じない。


「なんだ 疲れたのかあ?天音っ」

「ああ 頭使ったら脳が糖を欲したみたい」


「ん!」

勝太郎の手には飴がひとつ

「何味?」

「……ミントかな、のど飴」

「スースー系無理」

「チッ」

せっかく出されたのに、可愛くないものである。


「天音、あの二人うまくいくかな〜」

「いくでしょっ」

「……だといいな」


勝太郎には不安要素が沢山あったのだ。ちゃらんぽらんと言われながらも実は三人とよく接しているのは彼である。

幼馴染天音と、双子の兄、さらに同じクラスの杏里だ。

杏里を一番客観視しているのは勝太郎である。

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