本気で行くのか行かぬのか
ある日の放課後
ダンスサークル サブちゃんは密かに始動していた。しかし、次から次へすっかりモテ出した天音目的に参加しようとやって来る下級生達は見事にみな『やっぱいいっす』と退散する。
現メンバーは、船越さんと勝太郎、そして吉高玲司であるからだ。
どういった経緯で船越さんが在籍したのかは謎であるが、彼女は脚本、演出が好きなようである。
天音は変態からのコメントが殺到し出演を控えるよう皆から止められていた。
「では、今日は踊ってみたをやります。振り付けは完璧ですよねっ!!」
船越さん仕切る超少人数ダンスサークルで、勝太郎と吉高玲司は完全に尻に敷かれていた。
その得体のしれないダンスの手前コの字型ベンチにはユージとツインテール杏里が座っている。
「杏里ちゃんさ、こないだ合コン行ったやろ?」
「……え」
「違う学校のツレもその合コン参加してたんやけど。写メみたらほぼ百パー君やった。」
「違う人でしょ」
「ほんじゃ彼氏に確認してもらおか」
「やめて」
「なんでなん?あの彼氏に不満なん?まあ不満やわな」
「優しいけど、無理してるみたいに優しい。」
「はあ」
「……優しいだけ」
「愛されてないってやつやな。寂しくて不安やから他に手出すんや。」
「…………」
「まあ がんばりや。」
「ちがーうっ!本気でいけっ!!!」
と叫ぶのは船越さんだ。別の話である。
「ユージ君は天音のこと大好きだよね」
「うん。知ってる?嫌いな相手からっていつの間にか嫌われる。その反対や。
愛されたかったら愛せ」
そう言うユージは杏里より寂しそうである。美少女巨乳天音は本カレにもしてくれず、助けてもウザいと言われ、全く相手にしてくれないのだ。
近づく夏休み。学校が無ければ会うことすら無くなるのでは無いだろうか。
「そうやっ花火大会って近くである?」
「あるよ」
「それ行こ」
「え!?私と?」
「なんでやねん。みんなで。天音とおたくの彼と」
ユージはわざわざゴタついているメンツを集結させ何がしたいのであろう。
どうせゴタゴタするならまだ踊っているあちらのお三方もお連れすれば良いであろうに。その気はなさそうだ。
その頃天音と幸太郎はファミレスでバイト中であった。
「……はあ」
ちょいちょい放たれる天音のため息が気になって仕方がない幸太郎は天音が行く先々について回る。
ケチャップの補充の為回収してまわる天音について、紙ナプキンを補充している。
いい加減何か声をかければ良い頃である。
「天音 胃もたれか」
「え?なんで」
「ずっとはあはあ言ってるから」
なんともセンスのない声かけである。たしかに胃もたれでもため息は出るが、天音のはあはあは、もう少し深刻なようだ。
「こーちゃん、志望校決まった?」
「うーん、なんとなくだけ。」
「……決まったら教えてよ」
「え?まさか同じとこ受ける?」
「なんで?」
「いや。そんなわけ無いな」
幸太郎にとって、天音は幼馴染でも自分がどんなに求愛しようが今となっては応えてもらえるような女子ではないと心得ている。現にイケメン彼氏までいるのである。自分にもあの彼女がいる。
対する天音は、付添人としてあれだけ幸太郎の幸せを願っていたのに急にはいっ終了。あとは気にせずお好きにと言われてもやっぱり意識してしまう。
「こーちゃんさ、杏里と別れたくなったりする?」
ピーン
「はい。お伺いします」
「は?」
「え?」
「ちょ、店員さんこっち」
質問が頭を巡り幸太郎はいつも以上にボケ野郎である。
ピーンと鳴らしたテーブルではないテーブルに行きボケっと立っていたのだった。
帰り道は二人だけ
「さっきの話……天音は別れたいとか思うのか」
「質問に質問しないっ」
と鋭い目が突き刺さる。すっかりシャープな小顔はニコニコしない限り冷たさが増すのであった。
「あ ごめん。俺はたしかに、そりゃ思わないわけじゃない。良いことばかりじゃ無いよな。あたりまえか……」
良いこと探しても見つからないのでは無いか。その優しさはもはや、凶器の如く相手の心を突き刺している。
「ふうん。ユージの事はどう思う?」
「良い人っぽいね。楽しそうだし、天音を大事にしてそうだし。俺は安心かな」
大嘘である。毎晩、寝る前もしかしたら既にあのヤンチャぽい彼氏は天音にあんなことや、こんなことまでしてるんじゃ無いかと気が狂いそうな夜を何度超えてきたことか。
「私はユージと手つないで帰るくらいしかしたことないけどね。」
「え」
その短いえには、驚きと共に歓喜の意味により発されたのであろう。
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