あの恋のはじまり
新動画に熱が入るダンスサークル。
ドゥンドゥンドゥンドゥン
ゴミ袋をマントにし走り回る天音
その周りをイケメンたちがブレイクダンスする。
何であろうかこれは、かなり不思議な絵である。さらに天音をセンターとし、見事に揃った振り付けを舞った。
「ハアハアハア」「頑張ったな〜天音ちゃん」
「これで編集してミックスしたら完璧」
コンクリートに座り込み、謎の緑ヘアのウィッグに黒いマントに見立てたゴミ袋をつけたままお茶を一気飲みする天音。自家製杜仲茶である。
その視線の先にはいつの間にか誰かが居た。
屋上の片隅に佇む友が二人。
杏里と幸太郎である。
「こうたろう君 私 あの 多分もうバレバレなんだけど。」
「…………」
「私 こうたろう君が好きです。付き合ってくれますか」
「…………」
何故だ。弁当食べたんだから、即答ではいと言うべきである。
この男は何を考えているのだ。
「……あ ありがとう。あ、あのさ。俺まともに付き合ったりしたことなくて。だから、その明日!明日返事する」
幸太郎はダッシュで走り去った。緑ヘア黒マントの前も勢いよく通過した。気づいていなかったのかもしれない。
緑ヘアもそっと、その身を引っ込める。
ぽつんと、その場で佇む杏里を遠くから見守った。
そんな不思議な現場を目撃したからには、さっさと知らぬ顔で退散したい天音は光の速度で家路につく。
誰にも呼び止められずホッとし、最後の曲がり角を進んだ。
「天音!」
「え、こーちゃん はやっ」
光より速い人がいたようだ。
「なに。なんで。どうしたの」
「あ、あの杏里がさ 付き合ってくれって」
「はあ」
天音は大して驚かない。現場も見たからには雰囲気で分かる。謎であるのは幸太郎が勢いよく退散した理由と、今ここにいる理由である。
「俺、付き合っていいのかな」
「え?」
そもそもその為に天音もフォローしてきたのである。
「いや、まともに彼女なんて居なかったし。弁当食べてるけど、なんていうか友達でいた方がいいかなとか……」
「はー?!こーちゃん!女子がどんな気持ちで弁当毎朝作る?友達にわざわざしないっつーの。それを食べたなら覚悟しなっ。遠慮はいらない!」
「もし、うまく行かなかったらさ、天音に迷惑かかるかなって……」
「はー?!なんで私に迷惑?!そったらこと言ってたら何にも出来ないよ。何事もやってみなきゃ分からないんだから。大事なのはここよ。己の胸にだけ問うが良いっ」
どぅえーんっと胸を突き出した天音であった。
「ああ そうだな。ありがとう 天音」
幸太郎は爽やかにその場を去った。
曲がり角でまた振り返り手を振る幸太郎。天音も振り返す。
もしかしたら、これで付添人の終わりがグンと近づくかもしれないと少し心がうずいたのだった。それは感動からか寂しさからか両方が入り交じったようなものであった。
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