美少女を助けてもこんなもん

「杏里〜食堂いこうよっ」

「わざわざ?お弁当持って?」

「だってさ、別のクラスだから一緒に食べれないじゃん」

「ふうん。じゃあ行こう」

「こーちゃんもっ行くよ 食堂」

「え?」


 天音は、杏里と幸太郎 接近作戦に出たのだろうか。

 パッとしないその面で弁当片手に食堂へ向かう幸太郎であった。


 三人は廊下を歩く、パッとしない男と可愛い女子二人だ。

 ハーレム状態である。


「ねっ杏里のタイプってどんなひと?」

「え、なんでぇ。んー優しくて、面白くて~カッコ良くて~」

「小学生か」

「えーっだって基本でしょ」

「あっ優しいが始めに来て、ラストはカッコ良さ。ということは、杏里!顔より中身ってことだね!」

「まあ……そうかもね」


 この女子トーク成らぬ、男の娘?トークにポカンとしつつも、自分には関係ないといった様子で弁当開いて僅か5分足らずで完食した幸太郎である。


「どこ行くの?」と天音の問に「トイレ」

「あ、行ってらっしゃいませ」


「はあ」

「なに、なんのため息。そうゆう天音の理想の男子は?」

「ないな。しいていうなら……いや分かんない」

「あ……そう」


「あっうち次体育だ。先行くね」と杏里はそそくさと退散した。


 戻ってきた幸太郎はとりあえずまだ弁当半分食べ終わっていない天音の前に座る。


「天音は食べるの遅いな」

「なっどう思う?」

「ん?消化にはいいだろうね」

「ちがうっ。杏里!」

「え?」

「はあ……」


「なに、幼馴染はランチも一緒かあ〜羨ましいね。」

 やって来たのはクラスの自称イケメン担当。鼻につく話し方が天音の苦手分野であろう吉高 玲司よしたか れいじである。


「なんか用?」

「これだから追っかけたくなっちゃうよ。冷たい天音ちゃん」

「はいはい」

「あ、俺行くね」

「ちょ待ってっこーちゃん」


 幸太郎もまた吉高 玲司には関わりたくないのだ。

 甘い囁きは天音にだけ。常日頃『天音ちゃんの近くに寄るなこのボケ野郎』と罵られていい気はしない。


「ねぇ僕のことも玲ちゃんって呼んでよ」

「いーやーだ」

「はっカッワイイ」

「はあ。あんた昼なに食べたの?」

「ラーメン」

「ああだからか……豚の骨のにおいする」

 イケメン玲司は、手にハフハフして息を確かめトイレへ消えた。



 放課後帰り道


 学校を出てしばらく、同じ制服の男子がいかにもな不良に絡まれていた。

 カツアゲだろうか。それとも腹いせだろうか。

 杏里はぐいっと立ち止まる天音の腕を引っ張る。


「天音っ行くよ。私達じゃどうもできない」


 頭に血が上った様子で真顔で立ち止まり動かない天音。こんなルックスで正義感が強いのは困ったものである。


「ちょっと、やめろ。うちの生徒に」


 と一斉に声の主をみた不良どもは固まる。なんとも可愛く美しい子が腰に手を当て仁王立ちでプリプリに怒っているのだ。


「ちょっどーしちゃったの。この子」「やべー可愛いし」


 はっと我に返ったように開いた足を少し閉じる天音。女であることをまた忘れていたのである。彼女の偏差値はきっと低いのではなかろうか、または記憶力が弱いのか。


「なになに 続きは?」

「……だから、やめなって」


 後ろでガクブルな杏里は周りを見渡すも誰も助けてくれそうにない。世知辛い世の中だ。

 スマホを出した杏里の手が止まる。

「おーいっ後ろの子 通報とかすんなよな」

 不良共は天音を連れて行かんとばかりに囲む。


 天音の表情はこわばるどころか隙あらばなんかしてやろうと企みが見え隠れする。

 さっきから不良の股間位置に目を向けているのは大事なところを蹴ってやろうかとでも考えているからだ。

 そんな場合ではない。万が一連れ去られでもしたら女子高生誘拐事件である。


 と、不良たちの前に全速力で走ってきたひとりの男が立つ。表情一つ変えずその男は呟いた。


「はなせ」


「はあ?お前誰だよ」

「幼馴染だ。大事な幼馴染だ。」

「あ?」


『あ?』の後会話は無かった。

 天音が目を開けると不良達はのびきっていた。


「あれ……ぼ、私じゃないよな」

 自惚れるな、不良を見事退治したのは今目の前にいる男である。

「こーちゃん」

「天音 大丈夫か」



「こーちゃんっありがとう。さすがこーちゃん!やっぱ強いわ」

 と褒めちぎる天音であった。

「……………」

 普通は怖がるか泣くかするはずの女子が褒めるもんだからポカンと幸太郎は無言で立つほかない。



「わあっ!?天音大丈夫か?天音が絡まれたのか」

 と勝太郎も到着した。一足二足遅いのである。

「いや、私は……あれあの絡まれてたヤツは?」


 ぼけっとあたりを見渡す天音をぎゅっと抱きしめたのは、勝太郎であった。

 絵的にも見た目もいいとこ取りの弟に少しはムッとしたのか幸太郎はさっさと駅へ向かう。

 可愛い幼馴染を助ける王道恋愛話を少しは意識した自分が恥ずかしかったのだ。


「みんな、行くよ。ここにいたらややこしいよ!」

 杏里の声に気を取り直し「は 離せしょーたろ」と天音は杏里に走り寄った。


 天音は杏里が無事でホッとしたように杏里と腕を組む。もうあべこべである。

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