天音の作戦
翌日、吉高玲司のチョコ自慢一色である。
「幸太郎君はチョコひとつは彼女からもらえたよね?いいねぇ。まっ僕は手の指じゃ足りないけどね〜」
勝太郎は昨日紙袋に手の指じゃ足りない。さらに本命らしき個別紙袋も数個持ち帰っていた。
きっと、自称イケメン吉高玲司をうわまった数字である。
だがわざわざ言いふらしはしない水木兄弟である。
「俺は二個」
言ってしまったのである。弟ではなく、自分の二個という不可思議な数字を。大半の人間は、それオカンからだろと思うだろう。
隣の席で天音は傍からは分からない程度にはビクッとした。
「え?だれにもらったんだ?親でしょ」と吉高玲司は反応する。
まあ天音だと言ってもふうん良かったねくらいであろう。
「コンビニの店員さん」
「ハハハハハッ それサンプルとかじゃん」
周りも笑ったのであった。
「俺はコンビニのチョコが嬉しかった」
と小さく呟いたのは誰かに届いただろうか。そのボソッとした小声は。
放課後はダンスサークルの日である。
あのネズミセンパイいや、ヤッサンこと山根先輩の勧誘話の一件から少々面倒臭がっている天音であった。
だが、そこへ勢いよくやって来たのは勝太郎。
「天音!なんでチョコなしよ」
「ん?」
「誰にもあげなかったのか。おまえ、女捨ててんのか」
幸太郎は、コンビニチョコの出処を言っていないようだ。しかも天音はふと気づいた。勝太郎のチョコを完全に忘れていたことを。
それにしても、チョコあげなかったがために女捨てたとは、ハードボイルドな言いっぷりである。
「別に、女捨ててはいないけど。辛うじて女なぐらいで。私がチョコなんて渡した所で、ね。」
「チッ俺は欲しかったのにい」
少しプリッとした勝太郎はスタスタと歩きウォーミングアップを始める。
天音は、はあとため息をつき屈伸運動をその場で適当にする。
「ちょ、話がありまーす。俺ら三年は卒業間近だからチャンネルは維持するけどここには来れなくなる。んで、俺ら以外って君たち二年は二人だけだから〜。どうする?二人でサブチャンやる?メンバー募集しながら」
「……」
天音は今は何となくサブちゃんのテンションではないのだ。
「やりますっ」
もう一人は二つ返事でやると言った。決定である。
帰りは勝太郎と天音で歩く。
「こう 昨日さ普通に晩飯より前に帰宅したんだけど」
「へえ」
「あの二人やっぱさ」
「あっ!しょーたろ」
「ん?」
「こーちゃんにさ、恋人の扱い方、その……彼女とのイチャイチャの仕方教えてよ」
「はあ?」
「お願いっ。一生のお願い」
「えーめんどくさっ。なんでわざわざ上手く行かないかもしれないものをサポートすんだよ。ほっとけば」
「いや、このままじゃ、なんか切ないから」
「誰が?どこが?え どっちが?」
「……うん みんな が」
「はあ よくわかんないけど。それしたら天音はなんかしてくれるの?俺に」
「え?」
「ただでレクチャーするなんてやる気でないし」
「じゃ、修了式までにあと……ニ、いやっ三キロ痩せる」
「……それ俺にメリットある?」
「ない.……じゃ何がいい?」
「うちに来て勉強会俺として」
天音からすれば、ハードルは三キロ痩せるよりは低そうであった。減量は停滞期がつらい。天音は今まさにそんな時期である。
「分かった。のんだ」
「よし」
二人は固く握手をしたのであった。
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