幼馴染3人水入らず

「おはよう」

「あ おはよう 天音、あのさ ありがとうアレ」

 幸太郎は今更ながらチョコの礼を言う。

「ああ」

 と気不味そうに笑う天音は次に発する言葉を考える。

「待ってて暇だったから、だからしょーたろには渡してないし……」

「ごめんな」

「え?」

「待っててとか言って」

「ううん、待ってなくてごめん。……暇すぎたからコンビニ」

「ははは」

 もうすっかりぎこちなくなってしまった二人であった。

 幼馴染は遠慮なく絡めるのが良いところであるのに。

 ごめんという言葉はこんなに切ないものだったのか。


 放課後、勝太郎が三組にやって来る。


「天音!今日うちに来いよっ」


 クラスメイトは、幼馴染だからと大して驚かないが、幸太郎はどうゆうこっちゃと言わんばかりの顔である。

 だが、さらにその背後に待機するのは一緒に帰る彼女さんであった。




 水木家にあがる天音。


「あれ?おばさんは?」

「パート」

「こーちゃんは?」

「さあ、杏里か、バイトかな」


 なんということだ。ちゃらんぽらんと二人っきりである。しかし、天音はまだぽっちゃり度はかなり高い。大福呼ばわりされる自分なら問題はないだろうと気にしない。

 今は、団子あたりである。


「じゃ何から?過去問?」

「あ、こーちゃんはさ大学行く気あんのかな」

「さあ 聞いたことない」

「ふうん」

「ほらっどれからする?」

「えっと」


 この際二人とも大学へ行けば良いのである。その後はどうなるか分からないが、天音は幸太郎に進学してほしい。


「天音は?」

「私?……あ 考えてなかった」

「まじで。なんでこうの心配ばっかすんだよ。」


 とまたふくれっ面である。こーちゃんこーちゃん言われたら、そりゃあ幼馴染としては自分が負けている気がするものだ。


「しょーたろは、自分で思うように行動するでしょ。だけどさこーちゃんは、人のこと優先するとこあるじゃん?……あ!」

「なに?」

「しょーたろ。積極的かつ行動的なのは認めるし、素晴らしいけどさ、ぜーったいに、こーちゃんに迷惑かけないで」

「はあ?」

「だから、例えば、将来こーちゃんに金銭面で頼るとか、ローンの保証人にして自分はドロンするとかさ」


 全然例えになっていない。

 そのまんまである。


「ローン?なんの?」

「だから」


 と、勉強そっちのけで話していると幸太郎が帰ってきた。


「あれ?バイトは?杏里は?」

「どっちも無し」

「ふうん」

「勉強すんの?」

「うん」

「じゃ、俺も」

「「ダメ」」

「え?!」


 天音は杏里に幸太郎と勉強会はするなと釘を刺されている。勝太郎は天音との取引で勝ち取った専属家庭教師をシェアする気なんぞさらさらない。


 しかし、勝太郎は思いつく。今どっちみち幸太郎が居るなら今、イチャイチャの仕方を教えてやろうと。


「こう!違う勉強するぞ 来い」

「え しょーたろ」

「なんの勉強?」

「ん?女について」

「はあ?」

「ほら、天音がさっ こうは、奥手だから杏里が可愛そうだからって。」

「はあ」

「まず聞くが、手はつないだか?」

「うん。」

「キスは?」

「…………」

「え?!」

「マジで……俺キス教えんのかよ……」

「「…………」」


「じやあ、まずは何気ない日常で、杏里にどう接してるかやって!俺に」


 こっからは、またオカマしょうこさんの出番である。


「幸太郎くんっ。私のどこが好き?」

「……か 可愛いから?」

「ん〜わたしはあ、幸太郎の全部がだーい好きっ」

「あ、ありがとう」


「ゴラーっ」

「はい?」

「分かった。見てろ。天音!行くぞ」

「はい?」

「俺が言ったみたいに言って」


「幸太郎くんっ。私のどこが好き?」

「決まってんじゃん可愛いし、全部大好きだよ」

 と天音の頭をポンポンし、オデコスリスリしだす。


「と、オデコんとこで、チューしろ」


 目の前に座る幸太郎は、まさにボケ野郎状態でそれを見守る。しばしの沈黙のあと。


「おいっこう!聞いてんのか?もっかいやるぞ。チューするぞ」

「は?」

「分かったから、ストップーつ!」と幸太郎は必死に止めた。

「そ、そんなこと 俺が杏里に出来ると思うか」

「え?出来ないのかよ。じゃなんで付き合ってんだよっ」


 ごもっともな意見を勝太郎から頂きました。


「こーちゃん。女子は好きな人と付き合ったら、そりゃイチャイチャしてもらいたいもんだよ」

 ぽっちゃりさんも、心は乙女。すっかり女子らしくアドバイスしたのである。

 幸太郎は、ちょっと勝太郎に嫉妬でもしたのだろうか。二人がまるでカップルのように演じたからだ。

 だが、優しい男は思う。杏里に対する自分は愛想のない彼氏だと。改善すべきだと自身にムチをうつ。


 だが、それは明日からとして今は別だ。


「天音にしていい?しょうにしたらキモいだろ」

「ダメだって」杏里を気使う天音は拒否する。

「ああ 俺も天音にしたかったなあ」とポツリと言い出ていく幸太郎。

「はいっ!こーちゃん これにしてみてっ」

 天音の手には、いつの間にか見つけられてしまった幸太郎愛用の萌キャラ抱き枕があったのだ。

「……それ」

 完全に笑顔が消えた幸太郎。


「もう、そんなに嫌ならいいよ。とにかくもうちょいラブラブしなさい。それから、大学行ってね こーちゃん」

「え?なんで」

「なんでって、高校出てどうするつもり?」

「働く」

「ダメ!それだけは絶対にダメ!大学奨学金で行って社会人なってから働いて」

「でも母さん大変そうだし」

「おばさんもその方が安心するよ。バイトなら大学でも出来る。そうだ!しょーたろもバイトしたら?」

「はあ?じゃあ天音もして」


 ダンスサークルに学校にバイトに幸太郎の偵察に。なかなかハードである。だが天音は考える。

 今、このちゃらんぽらんにお金を稼ぐ大変さを味合わせるチャンスだと。


「分かった」


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