春休みのバイトと花粉症

「しゃーっしゃっせ」

「こらっちゃんと言え」


 月日は流れ春休み。勝太郎と天音はバイトである。

 ストライプシャツに黒のエプロン。

 結局、幸太郎務めるファミレスにお世話になっていた。


「天音っ変わるよホール出て。油はやめとけ」


 ポテトをフライする天音を気遣うのはやっぱり幸太郎である。


「大丈夫だって。つまみ食いしないって」

「そうじゃなくて」


「しゃーっしゃっせ あ、杏里」

 ご来店の杏里を迎えた勝太郎。

「迎えに来たの?」

「うん」


 三人がバイトしだしてから、杏里は頻繁にお迎えに上がっていた。

 勝太郎だけ遅番の為、幸太郎と天音がシフトを終えた。


「いやあ、やっぱりフライしたら頭もくっさいわあ」

 いい汗かいた天音は幸太郎と他愛のない会話をする。

「だから、油飛んだら危ないから代わるって言ったのに」

「仕事は仕事っすよ。先輩」

「先輩?」

 にこやかな二人は杏里を見つけると静かになるのであった。


「久しぶり!天音っ。ねえ こうたろう君 どっか行こう」

「あ、おう」

「じゃあねーおつかれっ。バイバイ杏里」と天音は反対方向へ向かう。


 こんな日は何度かあったものの、勝太郎はまだバイト。ひとりぼっちの背中は寂しさに覆われていた。

 格闘家のように自分のほっぺたを二三発 パチンパチンっと叩いた天音。

 そうだ、寂しさ?要らないのである。

 あのカップルが幸せで、大学にも皆様が進学し、勝太郎が真面目であれば問題なしである。

 だがどうしたことか。天音は目標達成が近づくほど虚しさが増すのである。


「はあ、心がない付添人なら良かったのに……」

 帰り道に呟いた一言である。心?心がなけりゃこんな大役は担えなかったであろう。

 心がなけりゃ、力づくで目標達成させるとか言う凶暴な白豚の再来になっていたであろう。


 ふと、時間を見ようとスマホを探すも無い。ファミレスに忘れたようである。

 まあいっかと思いつつ、健康アプリに体重変化をつけている。ロック解除は、勉強中に勝太郎はなんども見ていたであろう超単純設定1234である。

 まさか、人のスマホ見ないよな。しかし、勝太郎は信用出来るに足りない。

 結局また戻ることにしたのだった。


「はあ 疲れたあ」


 とファミレスの手前どこぞのマンションの駐輪場の前にとっくに去ったはずのカップルが、行き先を変えたのか居るではないか。

 何をするわけでもなく、その壁にもたれながら話す二人。幸太郎は教わったとおり、杏里の頭を撫でキスをした。


 とてもじゃないが、何食わぬ顔で隣を通過する度胸はない。

 天音はスマホを諦め、音を立てずにまた家の方を向く。


 花粉が飛び回る春先だ。特に今日は花粉が多いと天気予報で言っていた。天音は花粉症気味なのか目を真っ赤にして鼻をすすりながら歩く。

 天音は花粉症だと思いたいのだ。

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