舐めたらあかんがやってきた

 桜が咲いて先日の強風で散り始め毎朝教頭が門の前をほうきで掃きまくる季節。

 高三が既に始まり数日が経っていた。


 クラス替えもあったのである。

 三年一組には、幸太郎、船越さん、吉高玲司

 三年二組には、天音、勝太郎、杏里がいた。


 先生方は、成績や男女関係、双子をバランス良く分けたつもりである。

 そして天音はまあぽっちゃりだねといった具合にまでなっている。


「今日から転校生が入りました。緑川裕二みどりかわゆうじ君だよーん」

 そうだ。このふざけ気味の担任は村上つばさ先生。

 晴れて天音の担任となった。勝太郎と杏里はまたかよっと思ったであろう。


「はいっ緑川くん こっちに」

「はい。緑川裕二です。ユージと呼んでくださいっ」

「緑川君は大阪から来たから、みんな舐めたらアカンでー」

 と村上先生の下手なアカンでで締めくくられたのであった。

「あ、大阪ではなく兵庫です」


 ま、関西人であることは確かであった。そして勝太郎を差し置き、女子の視線は緑川君に釘付けであった。舐めたらアカンと言われてもまさに舐め回す勢いの女子達である。

 ちょっと悪そうな雰囲気に包まれてはいるが、整った今風の顔立ち。中性的、漫画にいそうなイケメンであった。


 緑川君の席は勝太郎の前 杏里の隣であった。


「よろしく。君の名前は?」

「あ 加美屋」

「したは?」

「杏里」

「杏里ちゃん よろしく」

 このイケメン、もれなく杏里のちょいつまみグセには大好物であろう。


「なあっユージ君 俺は水木勝太郎 杏里の彼氏の弟」

「え?」

 いきなりの自己紹介が難しすぎるのである。

 とりあえず緑川君はなんとなく理解する。


「はあ よろしく!勝太郎 杏里ちゃん彼氏いるんやあ 残念っ」

「天音ならフリーだよっ」


 何故、杏里は天音を引っ張り出したのであろうか。杏里には天音の存在は今や邪魔。

 イケメンに夢中になればいいと思うのであった。

 そんな事は知らぬ、ぽっちゃりちゃんはひとり離れた窓際の後ろで物思いにふけっている。

 視力抜群成績優秀者は窓際後ろである。


「天音ちゃんて杏里ちゃんと仲いいんや、どこ?」

「あの、窓際の一番後、色白で髪茶色くて、ぽっ……」

「あ、あの子か」


 あの子かに含まれた感情はあんなぽっちゃりいらねぇとは真逆である。

 可愛いい、あれは天使か……であったようだ。緑川君の目に天音は天使に映っているのであった。



 昼休み


 すっかりひとりボッチの幸太郎はみんなが恋しいのか、二組にやって来る。食堂へ行った生徒の机や椅子を使うのだ。

 だがそこには二組のみんなに囲まれる緑川君が居た。

「だれ?」

「転入生 緑川 ユージ ユージって呼べってさ」

 あっけらかんと言う勝太郎は弁当を机に出し天音を待つが、天音は自分の席でひとり弁当を取り出す。

 みんながガヤガヤして移動するにも大変だからだ。面倒だからだ。


 そんな天音の机に適当に誰かのかもしれない椅子を引っ張り座るのは緑川君だ。きっとあまり空気を読める人物とは言えないだろう。


「天音ちゃんでしょ。よろしくーっ。弁当ここで食うわ。天音ちゃんと食べたらうまそうやからっ」

 なんともドストレートな男である。

「あ、あ 宜しく 斉木です」


 呆気にとられたのはクラスメイト全員プラス隣のクラスから来たボケ野郎だ。


「天音ちゃん 天使みたい」

「え?ただの子豚くらいだけど」

「はあ?誰かそんなん言う?こんな天使を。色白で目も髪も茶色くて。」

「はあ」

「ユージって呼んでな。あ、ごめんいきなりうるさかったな。失礼 黙って食べるわ」

「仲良くしてな。俺人見知りやから。あっ黙れたん一分無かったわ」

「ふふ」


「ん?」

「いや ユージ君面白いね。さすが関西」

「そう?」


 まんざら引いたわけでは無さそうな天音であった。天使と言われて嫌な気はしないのが乙女心。

 それを見た幼馴染達は胸がチクリとする。

 杏里は心が踊るのであった。

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