ぐいぐい押してくるユージ
すっかり仲良くなったと思い込んでいるユージは、毎日天音に絡みまくるのである。
それを阻止すべく立ち向かうのは勝太郎であった。
「天音ちゃん毎日歩いて帰ってるん?」
「うん。まだ痩せないと」
「えーっ今のままで可愛いのにっ。やめてやめて!これ以上ちっちゃなったらアカン」
「天音は俺と歩いて帰るから な?」
「ああ 最近そうだね」
「え?なんなん二人は?」
「幼馴染」
「え、じゃあ あの目細ーいのは誰?ほらいっつも来て天音ちゃんばっか見てる陰キャみたいなん」
「「「…………」」」
後から登場したこの関西人は鋭い洞察力の持ち主なのか。関係各者が言葉を失うのも無理はない。
「あ、あれは私の彼氏のこうたろう君」
「あれ?勝太郎の兄って……」
「そう 双子 双子だよ」
「あー。そうゆうことか。へえ 似てへんな」
幸太郎が居なくて良かったのである。陰キャと言われ、天音を見てると彼女の前で言われずに済んだのだ。しかも、ここに幸太郎が居れば間違いく、ルックスは公開処刑いきである。
そしてバイトの為、急ぎ気味に帰る支度をする天音に、
「天音ちゃん、俺も一緒に帰る!方向は同じやから いいやんな?」
出ました。遠慮なしでグイグイ来るのである。が、どうしたものか阻止すべく勝太郎が居ない。
彼は杏里に何やら話があると呼ばれている。幸太郎との事でちょっと相談がとかの部類だが、もっぱら嘘であろう。天音とユージを二人にしたいだけである。
したたか気味な杏里と、強引関西人の連携によりまんまと天音はユージと帰るのであった。
「バイトってどこ?」
「うちの近くの駅前 ファミレス」
「ふうん じゃファミレスまで送るわ」
「えっいいよそんな……」
こんなイケメンに送られるなんぞ異常現象としか思えないのである。自覚しているのは子豚の自分、幸太郎の幸せを願いつつ日に日に虚しさが増し、すっかり元気もないぽっちゃりちゃんには、棚からぼたもちとも行かないのである。
そんなこっちゃ知ったこっちゃない隣を歩くイケメンはどんどん押す。
「天音ちゃんは彼氏欲しくないん?高校生活後一年ないやん。」
「はあ 私は特には……そういうのは」
「え?なんて?」
「彼氏はいらないタイプかな。いや出来なかった ん 作ったら不味いというか」
もうむにゃむにゃ言ってはっきりしないのであった。
「こんな可愛いのに。もったいなっ。俺やったらデレデレなるわ」
なんだろうか、こんな事を白豚再来以来言われたことがない。正直嬉しいのである。
「おつかれっ」
ファミレス前に立つ幸太郎が居る。さり気なく声をかけたそのパッとしない男の心は大きく揺さぶられている。天音が、天音がユージと帰ってきた、バイト先に送り届けられてきた……と。
「あれ。杏里ちゃんの彼氏やん」
「あ、幸太郎です」
「じゃあ、天音ちゃんまた明日!バイバイ」
「うん バイバイ」
あ、幸太郎ですは完全にスルーされたのだった。
ホールで待機中、テーブルに備品補充に回る天音に付いてテーブルを拭きまくりながら幸太郎は尋ねる。
「あのユージ君……天音を好きなのか」
「え?」
「たぶん……好きだから送ったりするんだ……」
わざわざ人の後をついて回りながら独り言のように囁く。
「もし、好きだって言われたらどうするんだ?そんなつもりないなら早めに言っとかないと、彼ちょっとヤンキーみたいだし」
「そんなつもりは……どうかな」
「…………」
天音は付添人として自分の恋愛なんて望んではいない。
だが、時々みせる幸太郎の優しさ、眼差し、寂しさに胸が痛む日々。それならばあのタフそうな新入りとカップルにでもなって、幸太郎に自分を気遣わせずにしようかなんて考えるのだ。
「だめだ あんなヤツ……あんなヤツと付き合うんなら……」
幸太郎はここで言うのをやめた。自分にどうこう言う資格はない。
あんなヤツと付き合うなら、俺とと言いそうになったのだ。忘れてはならない杏里が居るのに。
あんなヤツと付き合うなら勝太郎ととも言うつもりはないらしい。
もうとっくに自分の気持ちに気づいた幸太郎は結局杏里の彼氏という責任感から現状維持に徹するしかないのであった。彼女をフルとか、泣かせる事はこの男の辞書にはない。
優しい男は時に自身も周りも大事な人も傷つけるのである。
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