大福と言われても

 幸太郎と天音はひたすら問題集を解く。

 だが小一時間が経過したころ、勉強に飽きた幸太郎が天音のほっぺに手を伸ばす。


「ぷにぷにしてて気持ちいいな」

「こ こらっ何するの」

「ちょっと休憩しよう」

「……うん」


 たかがほっぺをプニプニされただけで、ズキュンとしたのは天音である。どうしたことか前回はキュンとする感覚が分からなかったのに目まぐるしい感度アップに動揺する。


 そういえば恋のゆくえはどうなのだろうか。

 天音は幸太郎に、勉学に励み恋をして青春を謳歌して頂きたい。


 ふとドアの隙間から視線を感じる。勝太郎が幸太郎の部屋を覗いているからである。


「しょーたろ何してんの?」

「あ。バレたか。だってさー俺だけ仲間はずれだし。密室で良からぬことしてないか見に来たんだよっ」

「こんな白豚と何もないって〜」と天音は自虐ネタを披露する。


「いや 天音は可愛いよな。なあ、しょう。目も鼻も口もさっ。ちょっと大福みたいにプニプニなだけで」

 と幸太郎のフォローが入った。ただ『大福』は聞き捨てならないのである。


「ああ 大福食べたくなってきたー」

 と、勝太郎は一階へ降りた。こんないじられキャラはとっとと引退したいものである。


「天音ちゃん ご飯食べていきなさいよっ。五合炊いたから」

 きっと五合では育ち盛りの男子二名とぼっちゃりさんには足りないのではないだろうか。

「えっいいんですか」

「遠慮しなさんな ほら座って」

「ああ、手伝います」



「おかわり!」

 と茶碗を突き出した勝太郎の茶碗を受け取ろうと天音が手を出すも、さっとそれを受け取り立ち上がるのは幸太郎だ。


「自分で入れなよ しょーたろ」

「えーめんどくさい」

「毎回こうなの?!」

「「うん」」

「はあ」

「いーよ。どうせ俺の分も。あ、天音は?」

「……」

「遠慮するな ほれ茶碗っ」




☆☆☆




 翌日の体育の時間の一コマ


「もうすぐ二学期終わりだからなーっ。今日は遊びだ!ドッジボールするぞ!」

 体育会系のノリは、あのオカマバーつばさの村上先生である。


 二チームに分かれ始まった。たかが遊びである。しかし中には本気モードの生徒もちらほら。

 青春だ。いつも本気で挑むのはいいことだ。


「っシャーッ」

 力いっぱい腕を伸ばし、しならせ遠心力を使い投げる男子。

「キャーッ」か弱い女子共の逃げる声。

 それを気遣いながら、敵チームの男子に弧を描くように優しい球を投げた幸太郎。

 だが、それをドンと受けた男子がもたついた天音に狙いを定める。

 天音はどえんっと尻もちを着いた。そこへ構わず投球される速い球。


 バーンッとその球を受けもできずとりあえず弾いたのは幸太郎だ。


「おい、天音の顔面狙うな」

「ああ わりい」


「こーちゃん……ゲームなのに」


 たしかに、座り込んだ女子の顔面に投げつけるのは酷い。

 幸太郎が差し出した手に手を取りよっこらしょと起き上がる天音。


「大丈夫か」


 ぼっちゃりさんになってから、大丈夫かなんて声をかけるのは幸太郎ぐらいである。周りはみな笑っている。

 しかし、惚れてはいけないのである。

「ああ ありがとう」




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