第29話 3 冒険と科学
ブルーバックの壁の前に立つ。
四回フラッシュがたかれた。
「パスポート発行まで五分です」
女性はにっこりと微笑んだ。
*******
「どうしても行くのか」
2ndは、何も冒険者に成らんでも、と乗り気ではなさそうだった。
「出入国管理係へ行くようだな」
加藤は割と乗り気で、既に移動の準備を始めていた。
デフォルトはフィレトと一緒に付いて来るだろう。
VRであるはずの此の世界に没入してもうどれぐらいの日が過ぎたか。
二時間で働くはずのセーフティは働く気配も見せない。
帰れる当てが無くなった。
3rdが教えてくれた「賢者」の話。
電子情報網では大した情報が得られなかった。
「西の町」に居る、と言う情報もあったがそもそも「西の町」とは何処か?
3rdから情報を得て一週間、周囲と電子情報網の符合を確かめてみた。
城壁までの地図と実際の建物との符合など。
殆どが、ハッタリだった。
統合司令部に照会して符合を確かめた地図でもやはりハッタリの情報が有った。
統合司令部ではこの状況をどうとらえているのか。
一度、統合司令部にも乗り込んでみる必要が有るかと、考えた。
とにかく、帰還に有益そうな気のする情報は「賢者」の話だけで、その「賢者」に会う為には「西の町」に行かなければならなかった。
此処は都市国家なので、他所の町へ行くには「パスポート」が必要だった。
入国管理局の窓口はデフォルトの時の、あのビルの、あの女性、が担当していた。
*******
全員パスポートを発行してもらい講習を受ける。
「域外は未知の領域で、パスポートは域内において誰であるかを証明するものに過ぎません。有効期限は三か月で、三か月以内に帰国しないと域内の市民権を失ってしまいます」
あの女性に懇切丁寧簡潔な解説を受け皆帰り支度を始めた。
「あの。」
「何ですか?」
「”ありがとう”って。伝言のこと覚えてますか?」
「ええ」
「誰からの伝言か心当たりがなくて」
女性は少し考えた後。
「そのうちわかりますよ」
と笑顔で此方を見た。
目が合いそうに成って目を逸らす。
「お世話様でした」
*******
#衛星都市の外
一行、2nd,加藤、デフォルト、フィレトの5名は自転車に乗って移動していた。
「この辺で昼にしよう」
キャンプ用のシートをひいて五人は座る。
荒野は高く上った日に照らされて石が熱くなり始めていた。
「見えてこないね」
「こんな平原で双眼鏡を使ってまだ何も見えないなんて」
「復、ハッタリだったのかな」
「西の町?あるだろ町自体は」
西の町との交易情報などが電子情報網にあるのが根拠だが薄弱かも知れなかった。
作りこみの甘いアマチュアのプログラムのようだなという印象はぬぐえないが、他に手がかりも無いので、先ずは「西の町」を目指していた。
「西の町って何が特産なのかな」
「人」
加藤が事間投げに答える。
「復、奴隷の話、か」
2ndが嫌そうな顔をする。
「端末未だ使えますよ」
此れと言って障害物の無い荒野では直進性の高いかなりの高周波でも、第三衛星都市に届くはずだった。但し都市は既に地平線の向こうだったが。
出発から既に六時間。
凡そ90kmは移動している。30km毎に双眼鏡で観察しているが街は見つからない。
方角が問題だったが此処では方位磁石には頼れなかった。
磁気の乱れがあるのか必ずしも北を示さない。そこで、太陽の移動軌道から自己の相対位置を割り出すことにしていた。則ち腕時計の時間と、日時計による影の方向と、出発時の移動方角から自分の移動方角を割り出していた。
それにしても、「科学」がこれほど役に立つとは。「科学」知識を使っていなかったら今頃肉に替えられて居たかも知れない。
「知は力なり」とはよく言ったものだった。
「そろそろ折り返し時か」
此のまま真っすぐ向かってもいいが、万一「西の町」に辿り着けないかった場合、野営をすることになる。夜間。日中野生の狼とかハイエナとか、その他野生の肉食獣に襲われはしなかったが、草は所々生えていた。昆虫、若しくはサソリ等が居る可能性もあり、それらが居ると言う事は「蛇」が居る可能性も高かった。迂闊に野営などできないと判断するべきだろう。
『西の町」の何処に居るのですか、賢者って」
「町の中央の「塔」に住んでる、と言う情報」
「典型的だな」
「復VRと言いいたい?」
「実際に街を見つけるのがこうも困難だとは思わなかった」
ハッタリの多い概略マップでは、中々事は成就しなかった。
「戻るか」
「あ、メルマーク残しておいて」
持ってきた鉄の槍を深々と地面に突き立て、旗を結んだ。
「よし、と」
「冒険者」としての初日の成果にメルマーク。
まぁ、いい方だと言う事にした。
日は傾きだしたが、今日は味方だったようだ。
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