第32話 6 交易
右の拳が敵の右頬をかすめる。
敵の右手が胸を掴み左足が払いにかかって来る。
左手で敵の胸ぐらを掴み反転して一本背負いをかける。
*******
揺れるカンテラの光に照らされたデフォルトとフィレト。
揺れながら此方に伸びている男の影。
「荒事は別動なんだ、お二方」
振り返りもせず男は言った。
2nd,火器持ってきてる、とわき腹をつつく。
火器を構えて男に向けつつ、
「西の塔まで案内してもらえると話が早いんだが」
2ndも胸のホルスターから火器を取り出した。
「別動って言っただろ?」
背後に何時の間に数人の気配。
囲みに来ていた。
「どいてもらうよ」
男の手を掴み、手前に引っ張る。
男は急に振り回されて、よろけながら、2ndの前へ出た。
素早く男の右わきを抜け建物の戸へ飛び込む。
「デフォルト、フィレト!」
直ちにフィレトが立ちあがり、デフォルトが一瞬迷ってカンテラを手に取って立ち上がった。
振り向いて、威嚇の為に火器の引き金を引く。
かなり大きな破裂音が辺りに響く。
全体が凍り着いた虚を突いて、2ndも部屋に飛び込む。
部屋に立て籠もって男達と対峙する。
幸い相手は火器を持っていないようだった。
壁に身を隠しつつ、火器の心理的威圧で膠着に持ち込む。
「……分が悪いな」
男は対峙しながら軽く溜息をついた。
援軍でも呼ぶのだろうか?
こんな戦い多分以前にもあったに違いない。
自警団が置かれず、「商売」の類が成立している。
それがその証拠ともいえる。
あまり公然と「商売」しているので「油断」していたらしい。
火器を持っていない。
「弾数はたりるのか」
「この距離だ。外れない。命は惜しいだろう?」
「裁判ぐらいしろよ」
「許可は出ている、王の」
「では仕方がない」
*******
国家を分類する考え方の一つに、摂食形態からくる二種類があると考えられる。
定住農耕民族国家と騎馬狩猟民族国家と。
この町は定住農耕民族国家が騎馬狩猟民族国家への朝貢を餌に接近を阻む為に設立された交易都市と言う事らしかった。
加藤は自警団員が話す「囮」都市の話を聞いているうちに、若しかすると、贄に捧げられようとしているのは自分たちなのではないかと、思えて来た。全てが作り話なのではないかと。
小考の結果に若干不機嫌に成って居ると、西の城壁方向から破裂音がして残響した。
*******
一斉に襲い掛かっ駆って来た男達。
慌てず空に威嚇発射した。
距離はほんの2、3ⅿ。
外すわけのない距離でわざわざ外した。
2ndは応射もせずに、
「何分もたす?」
と火器を胸にしまって窓から飛び出してしまった。
3人ともみ合いに成る。
「しょうがないな」
と2ndを追いかけて部屋の外へ出た。
*******
遠くから、女の、加藤の声がする。
威嚇の空砲が響く。
夜の闇に火器の口から炎がのそく。
「加藤!」
「――援軍か」
相手の手勢は動揺して動きが止まってしまった。
2ndの右の拳が左のジャブの後に綺麗に決まる。
相手の右ストレートをスウェイバックして避ける。
逃げ切った所で一歩踏み込む。
右の拳が敵の右頬をかすめる。
敵の右手が胸を掴み左足が払いに掛かって来る。
左手で敵の胸ぐらを掴み反転して一本背負いを駆ける。
敵味方数人が既にうずくまっていた。
自警団を含めて乱戦になった。
取り残された感じの女子三人に男が近寄る。
躊躇せず火器を向ける。
気が付いた男が三人から飛び退く。
自警団が二人直衛に付く。
一瞬、乱戦に取り残された男と対峙する。
台詞を飲み込みつつ男が周囲に合図をする。
「――退くぞ」
踵を返した男とともに一団は闇夜の中へ去って行った。
「ナイ、あれは恐らく――」
「結構疲れたよ」
「撤収しましょう。お疲れ様」
加藤は全員に声を掛けた。
フィレトがデフォルトの肩を叩く。
「下手すると大火災だったね」
デフォルトは手にしたカンテラを地面に置いた。
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