第14話 通過儀礼_4  こうそく

朝日が顔を照らしているようだった。

眩しい。

目を開くのが辛い。

手を縛られて、頭の上で木に括り付けられている。

公園には既に「客」が集まり始めたのか騒がしい。


*******


結局、契約書は保留のまま放っておくことにした。必要としているなら無契約でも使うだろうし、いらなきゃ放るだろうから。

一周間はまだ経っていないが、どちらもその話はしなかった。



何日此処に居るだろう。

宿屋の部屋に何処とも知れない日の光が指す。木の床にベッドと言う調度は概ね西洋式だが、ビジネスホテルに来ていると思えばなじめなくも無かった。ユニットの洗面所と風呂があるのもビジネスホテルのようだった。

支度して部屋を出る。


階段を降りると食堂には既に加藤と2ndが居て朝食を食べていた。

「おはよう」

「今日はオフだ」

「、と言って眠りすぎだな」

「何時もこんなもんだよ」

右腕の時計で未だ八時少し回ったところだった。

「今日の予定は」

「オフだと言ったろ」

「ここ何曜制?」

時計は日の出に合わせて設定してみたが、カレンダーは未だ判らない。四季が通じるかどうかも危うい。

「はぁー」

「何だ?」

「吐く息は白いが、冬か?」

「気にするな。戦略的に大した意味はない」

「異敵」の攻撃は季節とあまり関係ないのか。

それにしても。

「2ndは時々実家帰ったりしてるの?」

「実家?」

「本国」

「もう暫く戻っていない」

通じたかな。

「やっぱり二時間制限?」

「特に制限はない。VRではないからな」

……VRだろう。

「警告が鳴るはずなんだがな」


*******


昼まで部屋で寝転がって居ようと思ったら2ndが部屋に誘いに来た。手にチラシを持っていた。

「出物だそうだ」

「何?」

「ナイに関係ありだろ?」

チラシには商品として奴隷が顔写真付きで印刷されていた。

その中の一人に見覚えがあった。

確かに。

「ああ、この前の」

「買ってみたらどうだ?」

「……」


*******


現代に「奴隷」はあまりないはずだった。

某自由の国の独立戦争で、奴隷は解放されたし、近現代民主国家に奴隷の居る国も少ないだろう。しかし、先見的に奴隷であることへの忌避はあるだろうものの、奴隷を得たいと言うあさましい欲求への戒めとなる根拠、教えはあまり明示的に存在しない。他人の立場に立って考えることを知らない連中にとって奴隷制自体を否定する者の根拠は今一つ薄弱なのかもしれない。

どう考えても奴隷の境界は地獄界であるだろうに。


何時も通る宿屋の前の道を一本左手に入ったところに公園があった。幼稚園を二・三、並べたほどの広さ。砂場、滑り台、ブランコ等の遊具が設置されている。見慣れた設備の他に集会を開くための小舞台があった。其処に今朝のチラシにあった比較的若い男女が、物干し竿のようなものに吊るされて並んで居た。

リアルにみるとかなりグロかった。

舞台の回りには既に「客」が居て、オークションが行われているようだった。

「奴隷の、競り市?」

「奴隷の競り市」

このグロい光景が嫌で加藤は不参加だったのだろう。

「どういう経緯で奴隷なの?」

「――色々だ」

「此処人権無いの?」

「あるだろう」

ナイの知り合い、と指さされた方を見る。

この前衝突した少女が竿に吊るされていた。

「買え」

「買え?」

「そう高くはない。チラシにあるだろ――」

競り始めの値段は日当程の値段でもない。

「――他に選択肢はない。買え」


見た感じ未だ未成年どころか小中学生ほどの年齢に見えた。

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