第35話 9 怪物
暗い煉瓦の部屋をカンテラがオレンジに照らす。
「消しといたら」
油の残量を気にするフィレトにデフォルトが言い放った。
「真っ暗闇はちょっと」
隅々まで照らしてもこの部屋に油の替えなどない。
「次に補給が来るのが何時か判らない」
諦めたようにフィレトはカンテラを消した。
真っ暗になった。
*******
昔見た映画のように、塔の各部屋からは呻き声などの人語や息遣いが聞こえた。
廊下には虫やネズミが居て、衛生を論ずる以前の状態だった。
懐中電灯で照らしながら歩いて既に一時間弱。
時々現れる怪物を倒しながら囚われのデフォルトとフィレトの処へ向かう。
マッピングンの手間をオートマッパーで省いて進む。
出て来たのはゼリー状の塊、巨大な単細胞生物や、骸骨に近い戦士。他、RPGに出てきそうな怪物だった。大体火炎放射器で焼き払ってきたが、筋肉のついた骸骨がもっと微細な生物の神経系奪取で動いているらしいことには驚いた。寄生されていた。
此方の服装は白色系アンダーシャツにサファリジャケットで、紐を含むベルトで手足の首を絞めて虫の侵入を防ぎ、フードで頭への攻撃を防いでいた。ガーゼマスクもしていたが息苦しい時は時々外して息をした。
光の無い塔の内部。
走行性の生物が襲ってくるかと思ったが、意外と皆光を当てると逃げ去って行った。蛇に出くわしたときは困ったが、火で脅して何とか通った。
受付嬢を先頭に、一行4人は暗闇のダンジョンを進んだ。
*******
「眠った?」
「起きてる」
暗くは成っていたが、とても眠れる環境では無かった。
一人なら、こんな刺激の無い環境、そのうち眠くなるに違いない。しかし、二人でいたのと危険が何時身に迫るか判らないので、脈は速くなっているようだった。
「騒がしくない?」
「生き物の声?」
「人の声」
「……」
どうでていいか判らない。
息をひそめて待ってみた。
******
「あれ、消えた?」
ドアの隙間から漏れていた光が消えた。
懐中電灯の照射範囲外にドアを置くと光が漏れていた。
先頭の受付嬢も、あそこです、と言っていた部屋のドアだった。
後二十メートル無い距離なのに。
状況に何か変化があったのかもしれない。
一直線の廊下を進んで行こうとしたら。
「怪物……」
陸を歩くクラゲ、動く骸骨等が6,7対。
その先、ドアの前に人が被ってると思しき甲冑が現れた。
「どうする?」
前衛はともかく、後ろの騎士がまずがった。
「取りあえず投降勧告」
加藤は背中のバックパックから装備品の音響兵器を取り出した。
これで、と手渡され、投降勧告をしてみる。
「生きてますか?生きてたら投降してください。火炎放射します」
人語を解さないか、さもなくば意識がないのか怪物は全くの無反応だった。
暫くして、騎士は、
「……火炎、放射、器?」
と、ようやく反応した。
やばかった。返答できると言う事は、人間?
焼き払うのに躊躇していたら、前衛の陸クラゲ、と骸骨が襲ってきた。
「誰も通すな、と命じられている」
明らかな意志の表出だった。
前衛と騎士の距離がじゅうぶん、4mぐらい、離れたところで火炎を放射した。
見た目に高等生物には見えなかったが、騎士の例もある。
直撃させずに後退させた。
火炎の外縁の熱に触れた怪物たちは、嫌光性生物のように逃げ去って行った。
ここまでの冒険の経験通りの結果だった。
怪物は騎士を置き去りに逃げ去って行く。
騎士は驚いたのか、動かない。
懐中電灯の光に照らされた銀色の甲冑。兜も被っているので表情は読めない。
暫く対峙していたら、騎士は右手に下げていた短めのサーベルを上段に構えた。
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