第48話 22 灯り
地下壕で謁見。
相手は黒いフード付きローブに身を包み仮面をしている。
話に出た失地王とはこの人のことだろうか。
48畳程のフロア。
一番奥にその人は座っていた。
玉座に座った人の表情は仮面に隠れて分からない。
「未来からの帰還者です。」
男二人のうち痩せたひとりが玉座の人に報告する。
引率してきた二人は横一列に並んだ一行の前にいた。
玉座の人は頬杖を突いたまま一行を眺める。
左右に立っていた、侍従の左側が一行に問う。
「如何なる未来だったか」
当たり前といえば当たり前だが、状況が状況だったので、言葉に詰まった。
右手の仲間を見渡したが誰も応えそうに無かった。
気を引き締めてお応えする。
「文明が後退してしまったようです。」
――――
何か間違っただろうか。
玉座の人も侍従も、何も言わなかった。
重ねて言上する。
「少ない知見ですが、今のこの国とは比べようもなく、形骸化したものが殆どのようでした。確かに未来かどうかは確かめられていません。」
今度は届いた様だった。
侍従が更に問う。
「なぜ文明が後退したのか分かるか」
「見聞したところ――」
よく考えて答えるところだが、熟考するにも経験値が乏しかった。
「謎の生命体の攻撃を受け、戦っているうちに衰退したものと考えられます」
「謎の生命体――」
玉座の人が反芻するように呟いた。
男性らしい。
玉座の人の懸念がおさまるのを待って侍従がまた問う。
「汝らから何か問うことはあるか。」
通常あまり質問攻めにすることはないものなのだろうが、敢えて質問してみる。
「どうしてこの国が衰退するのか教えていただけないでしょうか」
エレベーターは地上へ向かう。
帰りは更にゆっくり昇っているように感じる。
皆押し黙ったままだった。
「――この国はもう長い間戦いに明け暮れている。国が二分三分することもあれば、他国に攻め入られもした。近年戦場の後方とは言え長く平和な時代も続いた。そんな平和な今日でも、国内も、他国とも、経済や外交で互いに対峙しあってきた。もう八百年はそんな経緯だった。知っての通り、此処百年間で隣国との間が再び緊張し始め、前大戦で大敗を喫したこの国は、戦うことも許されず、侵略の危機に怯えさせられて来た――」。
歴史の教科書に詳しく載って居るが、近年の侵略の話は、高校生でも感じる、生活に影響する脅威だった。国民全体がもう駄目だろうと、正面を見ないで過ごした。
「今度の戦争も、始めれば恐らく負ける。そう思っている者が大半だろう。平和な時代は幕を閉じ、暗転する舞台で光を求めもした。何もなかった。
昔の文献を読ませ、研究するうちにまるで試した事の無い事があった。
神秘の類と科学的手法の結合。
いくつもある文献上の神秘から、科学的に実証可能なものを選別した。
概ねどれも迷信の域を出ないものだった。が。
ある一群の文献が実証主義的研究に適合した。
この一群を基に構築することになったのが、最終発動器、リーサルリアクター、だ。
諸刃の剣、危険なものだと言う事は指摘されていた。しかし、戦争で負けないために必要と判断した。
汝に聞きたかったのは、その結果だ。帰還者よ」
廃ビルの地下迄エレベーターで昇り、階段で地上に出る。
地上の空は快晴で都心なのにすがすがしい気がした。
大きく深呼吸をする。
「俺達にも何か出来ないかな」
2ndがまじめな顔でナイをみる。
「今のうちに潰した方がいいですよ」
フィレトが力説する。
「此処までだ、当面和合がついた。家へ帰れる」
小柄な男が通信機をポケットにしまう。
「暫く厄介になる」
復、未来へ行くことがあるだろうか。
「あれ。」
デフォルトが何かに気付く。
上空東の空に灰色で綿飴状の何かが、都市を覆いつつあった。
綿飴状の何かが食指を動かすのを見て痩せた男が言った。
「召喚されたようだな」
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