第47話 21 闇
巨大都市の下。
エレベーターに乗って既に数分。
地下1000mと言う地下壕へは未だ辿り着かない。
*******
ホバリングしていたヘリが加速して去っていく。
「行っちゃった」
フィレトが呟く。
「国までヘリコプターか?」
「空軍基地で乗り換えだそうだ」
さぁ、もどろ、と2nd.
「我々は?」
「続き、と言う事だろう」
2nd は加藤をいたわるかどうか少々迷う。
遠く交わる水平線と空の向こうにもうヘリは行ってしまった。
ナイには辛うじて国籍があった。
いろいろ問題があるそうだが、帰国可能になった。
しかし、我々には。
「国籍は?」「御両親の名は?」「年齢は?」「故郷の名は?」
質問は執拗に繰り返される。
確認ではなく、口が滑るのを待っているらしい。
一人二時間この質問攻めに合わせた後、雑談に移る。
「ナイの国って」
フィレトに現代国家の概念は解り辛かった。
調査官は優しいが、平易にするでも無く応える。
「隣国ほか多国籍軍に攻め入られて、今はUNの委任統治領だ」
「滅びちゃったんだ」
「隣国が委任統治しているが、国は残っている」
「何でそんなことに?」
加藤が割って質問する。
「一説には宗教的問題が解消出来なかったから、というが門外漢には解り辛い」
「いいんですか?」
デフォルトが釘を刺す様な質問する。
「此れぐらいは図書館へ行けば判る範囲だ。それより――」
こんな話が、何日も続いた。
結局、この世界に国籍の無い四人は、帰る場所など何処にも無かった。
人権を標榜するUNとしては、切り捨てるわけにもいかず、処遇に苦慮したが、ナイが帰国した三日後、加藤、2nd、デフォルト、フィレトの四人もナイの国へ配属される事に成った。
どうせ何処へも逃げられない。
艦内の移動は基本的に自由だった。
早い夕食を終えて四人は甲板に立っていた。
多少の潮風が強かったが少し暑くなったせいか、かえって心地よかった。
「どうする?このまま出たとこ任せでよいのだろうか」
出たとこに任せるしかなかった現状を変えたいという意だった。
「ナイの国だろ?」
2ndは、詳しいはずでは?と言いたいらしい。
「ナ―ブが出る。」
白い服の兵隊がでる、それは「敵」の支配地域、すなわち。
「ロストの国ってことか」
「恐らく」
あまり好ましい状況では無かった。
加藤が少女二人と向き合うと、デフォルトが答えた。
「私達は付いて行くだけですから」
「学校に行けるといいんだが」
十歳前後に見える少女達には教育の場がまだ必要に思えた。
「微妙だな、話しに依ると占領下だろ」
難しい話だった。
廃ビルの林立する都市中心部。
学校を後にしてから旧知の場所には何処へも入れず、駅で合流した秘密結社の男二人とアジト迄たどり着いた。トイレで早着替えし、マスクをしたら、官権の監視を全部すり抜けられた。疫病が流行って居たのでマスクに何の違和感もなかったのが、かなり影響したのだろうと思う。
エレベーターの止まった二十階建てのビル。
最上階まで階段を上がるのがかなりキツイ運動だった。
夜の展望フロアは照明もなく暗く沈んで居た。
黙り込んで静かなフロアに靴音を響かせつつ窓際に行く。
真っ暗な地上を想定した。
足元すぐに車列の光が流れ、意外なことに彼方此方のビルに照明ではなく、火。
焚火の類が見受けられた。
「今日は此処で」
秘密結社の男の一人が壁際の箱から毛布を持ってきた。
黙っていようかとも思ったが、尋ねてみる。
「負けたんですか戦争に」
「――、ほぼ惨敗だった」
「占領統治下?」
「政府ごともっていかれた。官憲が向こうサイドなのもそのせいだ」
「では我々は、反政府・・・・・・」
「軍といえるかどうか。抵抗勢力だ」
「饒舌なようですが」
「旧国側だろ、君は」
「そうですね。」
「明日、地下基地へ行く」
「善処しますよ、もう行くところもないし」
翌日、地下壕へ降りるため、ビルを降りた。
午前五時。
地下鉄の駅に立つ。
男の一人が、デジタルの時計を見る。
もう一人の男が駅員に手を振る。
駅員が頷いて返すと、男達は線路に飛び降りた。
唖然としていると、早く降りろと、男たちにせかされた。
仕方なく飛び降りると、少ない客の何人かが騒ぎ出した。
駅員が客をなだめていると、三分ほどで列車がやって来た。
殆んど居ない乗降客。
確かに見た、という客を作業員だろうと、駅員は言いくるめた。
少ない客の乗降を済ませて列車が発車する。
ホームの下、窪み状の退避溝に隠れはしたものの。
一歩間違えば轢死体。
拍数の上がった心臓を抑えつつ、真っ暗な地下鉄線路を歩く。
程なくして傍らに抜けるドアをくぐると、小フロアに出た。
「よ。」
2ndが手を挙げて笑った。
「では地下壕へ。」
フロア正面に有った二台のエレベーターの内右のエレベーターに乗り込んだ。
注
危険行為の再現、模倣を固く禁じます。
事故の元となり危険ですので。
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