第46話 20 デカダン




結局、更に二回ほど車を変えて、自宅付近に来た。

自宅の前には巡視車両が停まっていた。

帰り着くには職質を避けられそうにない。


職員は路上でタバコを吸いながら張り込んでいた。

時々むせて咳き込んでいる。

車両からは聞きなれない流行歌の類が聞こえて来た。

四人のうち二人がそんな感じで、残り二人は立ちながら談笑していた。事情は聞いていた。真面目にやっていられないのだろう。


「何処もこんな感じだ」

運転席の男は煙草を吸わない。

目立つのでカーステレオも切ってあった。

「学校、行けますか?」

長時間いるのも不審がられる。

五分駐車して学校へ向かった。



午後一時頃。

未だ授業中の筈の学校の門は、鍵も掛けずに開放してあった。

車を降りて、正門の脇の通用口から学校へ入いる。

運転席の男は車を降りずに去っていった。

この辺に居るから、と言っていたが何処で拾ってもらうことやら。


学校の警備は意外に手薄だった。

未だ授業中と思しき教室へと向かった。


疫病の故か、教室には数人の生徒しかいなかった。

見知ったはずの教室には、知り合いが誰もいなかった。

話してみようと、生徒に近づくと、煙草とは違う、何かの香の匂いがした。

「なんだよ」

「今日は休み?」

「用事なら職員室行きな、居るよ――」

生徒が深く煙を吸いすぎたのか咳き込みだす。

止まらない。

もう一人の生徒が笑いながら、死ぬなよ、と言って、煙を吸った。


漸く咳が止まる。

焦点の虚ろな目が覗き込んで来た。

「あんた薬は」

「特に」

「そうか」


生徒は不思議そうに呟きながらまた煙を吸った。

「お大事に」

教室を後にした。


ついこの間まで庭だった筈の学校の廊下を歩く。

どの教室でも授業はやっていなかった。

それでいて生徒の気配がどの教室にも一応あった。

何をしているのかは、確かめなかった。



職員室の前に立つ。

中から教師の声が聞こえた。


「部外者を入れて――」

「部外者、ではないみたいですよ」

「警察には連絡してあります」


モニターされていたらしい。

慌てて外に出た。


校門前で自転車をおした警官にあった。

緊張してこわばったら、声をかけられた。

「侵入者って、あんたか」

「一応生徒なんですが」

「連絡は受けている」


携帯の写真を見せられた。

間違いなく自分だった。

「指名手配、ですか」


警官は少し考えて、

「上からおさえるように言われてるんだけど――」

警官は空砲を一発空に向けて撃った。

「抵抗の上逃走、にして置くよ」

と言って笑った。


「持って行ってくれ」

警官は発砲した銃を差し出して、

「奪われたことにしないと、立場無いから」

と言って自転車にまたがって去っていった。



サイレンの音が聞こえて来た。

慌てて校門を出て組織の車を探した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る