第26話 冒険の始まり v1_2_2


夜の青が染める第三衛星都市。

デフォルトもフィレトも既に眠っている。加藤と2ndも多分眠っているだろう。腕時計は二十四時間制午前一現地時。日の出日の入りとその推移を二十四時間制の時制で表して地球のそれと比較すると概ね同じ推移を辿ることから、此処は何らかの形で「地球」と符合する世界であると言えた。南中高度等を調べれば、経度緯度等も恐らく判るだろう。

いずれかの時点の「地球」或いは平衡世界の「地球」。

疲れて上がった顎。見上げた天井に灯る「電灯」。

「ファイナルリアクター」はもう稼働していないはず。この辺は水源があるのだか無いのだか、なので、火力か原子力で電力を供給しているのだろう。人を、人の命を燃料にして発電されても困る。

「異敵」はここの所現れない。「遺跡」方面は静かなものだった。

戦闘は、「異敵」との闘いも、「内乱」も、終結したといっていい。

結局「異敵」が何故襲ってくるのか、この世界の人も知らない。そもそもこの「戦地」は閉鎖二十五世界侵略者に対して設けられた特設世界だとVRの学習プログラムはいう。本番の「敵」は「外」に居るのだろう。

「未知の敵」との戦いは序盤ですらない。



未明に床を抜けて、階下に降りていくと宿屋の出入口で加藤に会った。

「おはよう」

「御来光?」

「太陽観測」

「天文台は無いんだ此処。」

一見高度文明のように見えて、此処は既にその残骸でしかない。使役するだけ使役して、只消費するだけ。何れ消費し尽くして、何もなくなる。確かにそう言った意味では「助っ人」にその知識を以て維持してもらわなければ、文明そのものが風化してしまうような、そんな文明だった。

その、文明維持の犠牲者に同じ人類を生贄としていた。それが此処の秘密だった。其れもどうやら、ある特定の特性を持った人材を生贄にする事が。

「デフォルトとフィレトが焼くぞ」

2ndが宿屋の食堂から出て来た。鳥の手羽焼きと思しき焼き鳥を根元の銀紙を右手でつかみ、豪快に噛みついている。

「未だ眠ってるよ、夜明け前だし」

腕時計を見て、予測日の出時間には未だ十分以上あるのを確認。

「どうすんだ、「境界者」」

ロールネームは結局未だ「境界者」だった。「ナーブ」に捕まったことも無く、「スキゾ(逃亡者)」でもないのであまりロールの選択肢は無かった。

「これ」

「此れ?」

「此処」

「此処?」

「此処はVirtual Reality、仮想現実だったよな」

加藤と2ndは要領を得ない顔をして、恐らくワザと首を傾げた。

何処製のオーバーアクションなのか。

「二人とも此れが仮想現実ていうのは認識済み何だろ?」

『それが何か?』

「帰らないのか?元の現実」

「帰る、って言っても」

何時までも終わらない仮想現実。

戦地の日常。

宿屋の窓が日の光に照らされ白くなり始めた。



朝食は加藤、2nd、デフォルト、フィレト、と五人で食べた。

パンとライス、スープ、鳥の手羽焼き、サラダ等が大皿に乗っている。加藤が其々の小皿に給仕する。

「帰る、って、話ですけど」

鳥を手に持ちながらフィレトが絡んでくる。

「我々は助っ人だから」

「此処は見捨てていく、と」

フィレトが雄弁に語りだしてもデフォルトはまり気にせず盛って貰ったサラダをトーストに乗せて頬ばるばかりだった。

「4thと3rdに呼ばれてるのに、何処へ帰る」

加藤は給仕の手を止めて、見据えてくる。

「加藤も知ってる元の世界へ」

元の世界とこの世界、reality に差異があるようには感じない。何方の世界も、有無定まらぬ根無き世。根無き故に有無定まらぬ「隣接二十五世界戦地」。元の世界も未だ根無き有無定まらぬ世だろうか。それでも。

(女には恵まれたが、な)

加藤、デフォルト、フィレトの顔を見る。

VRだからって、アバターってことは無いだろうと見える。視聴覚に飽き足らず触覚に及んでしまいそうになるのだが触れられない。メルロポンティは推奨する、と言う事だが、接触に由るテリトリの侵害はハードルが高い。メルロポンティーがそうだったかどうかは知らないが、ふと、初めから向こうもVRだったんじゃないだろうなぁ、と思う。

ノスタルジー≒望郷。

自衛隊が「カタカナ」等を撃退して沸いたあの日を思い出す。

闇迫る「現実」の中でも。

其処に光があった気がする。

「我々も帰りたくは有るのだが、帰れない」

2ndは改まった口調で、鳥に嚙みつきながら言った。

帰れない。

何だかそんな気はしていた。何時になってもお呼びがかからないsafty.

工業規格ではVRは二時間に一回休息を強制する様に成って居たはずだった。しかしここで過ごした「日々」の長い事、長い事。

2ndに聞いてみる。

「ハードウェアの問題――だけじゃなさそうだな」



並んで座る3rdと4thは此方の疑問を一笑に付した。

「ナイ、我々もだ。帰れない」

「此処は――」

「「元の世界」の連続線上にある世界だろう。」

「はぁ」

長い溜息がでた。

加藤の見たDVDにあれはあっただろうか?

「帰りたいのなら、賢者を探して尋ねるがよい」

4thが言った。

「この衛星都市群の中には居ない。統合司令部は認めていない」

3rdは「厳実」を虚飾なく認識させた。

「何か端緒のようなことは無いのですか」

「境界者ナイ」

「はい」

「ロールは定まったか」

「いいえ。この世界の住人として居することを定められません」

3rd,4thの両王は言葉をよく玩味するように沈黙した。

「この世界に「異界」から来た「女賢者」の噂がある。調べてみるか?」



夜の青が染める第三衛星都市。

夜明けまであと十分。

装備と人員を確かめる。


「それでは――」

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