第38話 12 遠望
灰色の荒野を走っていた。
地平線が見え、目標物がなくなった時点で停車する。
プリントアウトした「地図」を見た。
*******
「お勤め御苦労さま、ナイト殿」
魔女が此方を見て笑う。
被っていたフードをめくる。
宿屋の娘だった。
「此の塔ではナイトは大概気が狂う――捕まった娘を救いにやって来て、此の塔に閉じ込められ、牢屋の娘を商品にして、「客」を獲らなければならないのだから,おかしくも成るでしょう――いやしくも人間なら」
常夜灯らしいタングステンライトの下十人程座れそうな椅子と卓。
魔女は窓際方向、一番奥の席に腰を下ろした。
「奴隷による娼館、それが此の塔の秘密。現在此の塔に居る商品はあなた達だけですが」
「秘密を知ったからには、て事かな」
「そろそろ、辞めにしようかと」
「火炙りに成る前に?」
「火炙りに成る代わりに、宿屋に戻ります」
「一つ聞いていいかな?」
「何ですか?」
「此の世界に「魔法」ってあるの?」
*******
地図上「西の町」の更に西に「人形の町」、その北に「錬金術師の町」があった。縮尺が判らないのが難点だった。
「魔法ですか?」
「無いんだ?」
「魔女の正体が宿屋の娘なぐらいですから」
「――」
「此処は大体人の知恵で成り立ってるよ」
「それも、概ね手入れ不要な」
「賢者の話は、只の虚言、と」
「ああ、それは――」
「何れ私も、母のように――」、そう言って別れた西の塔の魔女は町へ、宿屋へと帰って行った。
東に向かって歩く黒いシルエットは朝陽に照らされてやがて見えなくなった。
*******
平均時速15km程度で進む一行は十時に町を出て、五時間後西へ凡そ70km程度進んだはずだった。
日時計で方角と時間を確かめる。
「車は、借りられなかったのか」
「ガスが何処で切れるか判らない上に、敵に取られると厄介だから不可、だった」
「既に引き返し不能か」
日は復傾き、薄明かりは紅いベールが掛かり始めていた。7時までには暗闇に成るだろう。目視可能な時間に町は見えない。
「戻るのならまだ、戻れなくもない。メルマークも残してきたことだし」
「何考えてる」
決断できずにいると加藤が少し強い口調で咎めて来た。
「西の町、もうあれで放って置いていいのかな」
「奴隷商の件?」
「事件って普通解決して移動するものじゃ」
「「客」はどうせ次の街だ」
「「客」ね」
少し考えて、決断した。
「出直そう。」
西の町、西方約70kmにメルマークとして杭を打って一行は帰路に着いた。
辺りは急速に夜の闇へと近づいて行った。
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