第11話 通過儀礼_1 異敵襲来
「熱処理ね」
都市の残骸に触れる。ガラス状に溶けたそれが熱処理の凄まじさを顕す。
加藤がジープに乗ったまま応える。
「ずいぶん昔の話だ。残留害毒はもう量っていない」
砂塵を含んだ冷たい風が吹く。
「敵は、出るの?」
「出るよ、色々。巨大なものからクラゲ状のものまで」
2ndは来た道の先を見ていた。
都市の残骸の向こうには湖が緑の水を湛えている。
仰げば空は低い天蓋を構成し、澄んだ青い色をしていた。
そろそろ時間の筈なんだが。
*******
「はいはい、食べて食べて」
夕方。
宿屋に戻ると下の娘が食堂で待ち構えていた。
席に着く。
宿屋の娘が鍋の具を取り皿に盛ってくれた。
「今日も豪勢だね」
一人当たり三皿ほどのオカズと御飯。それに鍋。
小皿に盛られた鍋の具材は豚と野菜がメインだった。
一皿三百ほどとしてオカズ九百。
御飯が二百、鍋が五百ならば凡そ千六百。
二千でおつりがくる。
一食二千。
普段の食事に比べればやはり豪勢と言って差支えないだろう。
「此処の払いって」
既に一週間は此処にいるが未だに金銭を支払った覚えがない。
持っているのはクレジットカードで、おこづかい銭すら持っていない。
加藤が疑問に答える。
「王(ロード)が支払っているから心配はない。給与から引かれている。宿と食費は天引きだ。残りはクレジットカード。」
「例の金貨は?」
「此処では流通していない」
2ndは教導を加藤に任せて黙々と食べていた。
*******
部屋に戻る。
宿屋の二階の表通りに面した部屋。
電源、冷蔵庫、ユニットバス、テーブル、ベッド。
ほぼビジネスホテル相当の部屋の装備だった。
総合VR演習六日目。
今日の模擬戦では、クラゲ状の「異敵」を火炎放射器で焼き払うはめになった。
VRなので生き物殺しの苦を具に受けないだけましと思うしかなかった。
ベッドの上で横になる。
記憶では標準工業企画で二時間もVRをプレイしていたら自動的にログアウトする仕様になっているはずだが、何時まで経ってもログアウトしない。
VRセットを外しても、戻ってくるのは統合司令部第三分室VR演習室の暗い部屋だった。
白熱灯のスイッチを消す。
「異世界。」
このまま眠ったとして起きるのは復このベッドの上だろう。
これは例の話のようになってしまったのだろか。
あの道士の如く。
閃光。
窓の外。
爆発音。
地震のような揺れ。
飛び起きて窓を開ける。
通りに異常はない。
電柱の街路灯も正常に明かりを灯していた。
突然ドアが開き、2ndが顔を出す。
「ナイ、敵襲だ」
演習ではない、らしかった。
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