第3話 ナーヴズ

「前方の偽装緊急車両速やかに左に寄せて停止しなさい」

国道を時速80kmで疾走する白地に赤帯の緊急車両。赤色回転灯で真夜中の街を不穏に染めながら西へと突進していく。


「宜しかったらこれもどうぞ」

清酒がよいというのでコンビニで日本酒を一ってきた。今出したのは自分の趣味のブランデー。清酒を飲んでいた関係でお猪口に洋酒を注ぐ。

テーブルの上には裂きイカ、ポテチ、刺身、ピザ等がおかれている。はっきり言って散財だがそれだけ投資しても、こういったチャンスはめったに来ない。賭けて損のない投資だろう。

既に女子はアルコールが回ってきているようで、若干舌が回らず、血の気が頬を紅く染めていた。

テーブルというか卓。畳に四角い卓。

女子は飲みすぎたのか、そのまま背中から畳に着地した。

「枕、出しましょうか?」

女子はそのまま眠ってしまった。

「せっと」

あまり飲まなかったのでふらつきもせず立ち上がる。

押し入れからお毛布を取り出し、大雑把に女子の上半身にかける。

テーブルの上の散乱した宴の後。

「……ふぅ」

卓の真ん中、ピザのわきにさっきの硬貨が置いて在った。

「コインか」

何処かでは等価換金してくれるのだろうか。

*******

「誰って、この辺りは俺のテリトリーかな」

少し考えてから応えてみた。所領とテリトリーは何か違うな、と思いつつ。

「そうか、では、今夜の宿と、食料を」

女子は少し安心したかのようだった。


サイレンの音が急速に近づいて来る。

東から西へと向かっているようだ。

緊急車両が視界に入る。

時速およそ80kmで街道を直進していた緊急車両が急ブレーキをかけてテールを反時計にドリフトさせ、コンビニの駐車場に突っ込んできた。

店舗に突撃する勢いで突進してきて急制動で停車した。

後部ハッチが開いて中から白い装甲服の、兵士?が二人出て来た。


「其処の偽装緊急車両の白いの」

追ってきた警察の緊急車両が街道からゆっくり駐車場に進入してくる。

装甲服の一人が振り返り、もう一人が。

「あれ?」

何時の間にか女子は居なくなっていた。



「無免許。30kmオーバー。危険運転。その白い服は何?」

白い装甲服の二人は何も答えなかった。

「黙秘か?これは何だ」

警官二人のうち一人が装甲服の持っていた、銃?を手に取ろうとした。

もう一人の装甲服が、妨害する。

「公務執行妨害で――」

白い緊急車両が装甲服二人を回収にかかる。

警官が避けた隙にハッチを開けて装甲服が車内に逃げ込む。

後部に他の人影が。

急発進する白い偽装緊急車両。

警官二人を回収して急発進する巡視車両。

二つの違うサイレンがコンビニの駐車場から遠ざかって行く。


「御苦労」

何時の間にかまた隣に女子が来ていた。

大き目のフランクフルトをかじり、炭酸飲料を持って。

「関係者?」

「いや、追手だ」

最初から考慮に入れるべきだったが、若しかして。

「脱院?」

「脱?」

女子は落ち着いてフランクフルトをかじり尽くすと、炭酸飲料を一気飲みし始めた。一分で飲み干した。

「さぁ、汝の城に移動しよう。追手の来る前に」

*******

(まだ何も聞いてないな)

毛布を掛けた、女子の寝顔を見つつ、洋酒を飲む。


今日は変な一日だった。

見事女を引っ張り込んだのはいいが。

変な来客は夜が明けたらどうするのだろう。


午前四時。

眠るにはもう時間がない。

本を読むにはもうアルコールが回ってしまっていた。

酔い覚ましにペットボトルの水を飲みながら此の子をどうするか考えることにした。

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