第4話 インビテーション 1
「これで?」
美容院の椅子に座っていた。
ヘルメット状の機械を装着するところ。
「被れ。それがしきたりだ」
蛍は既にヘルメットをかぶっていた。
美容師風のオペレーターが接近してヘルをチェックしている。
「あの、おいくらですか?」
財布の中身は一万円。足りない気がする。
「御紹介、でよろしいですか加藤さん」
「一晩世話になった。宜しく頼む」
「四千円になります」
カットと合わせて七千円。何とか支払える。
「お願いします」
美容師が頭に機械をセットする。
「動力、入ります」
心電図の測定装置のような機械の作動音が聞こえた。
*******
校庭は二クラス合同の体育の授業。
窓から見える女子の体操服姿が眩しい。平和をスローガンにしているだけのことはある、と言う平和なお昼前だった。
女子に見とれていると隣席の女子が、ソフトな奴、と横目で呟いた。
チャイムが鳴る。
4限目の歴史の授業が終わった。
「何時まで見てるの?」
ハリセンをミニチュアにしたような紙細工で頭をはたかれた。
体操服のはずの隣のクラスの女子が、ブレザー姿で立っていた。
剣呑剣呑、と隣席の女子が席を立つ。
「最近老眼でね。遠くの方に焦点が合うんだ」
「緑を見ろ緑を」
「安全だといいね、君の人生も」
「何?」
「いやちょっと」
校庭の方から聞こえた車の音でもう一度校庭を見る。
あまり見たことのない外車が校内に進入して来ていた。
「部外者?」
「なんじゃない?」
隣のクラスの女子は青ざめたように閉口した。日に照らされていも顔色は判別しがたかった。
「先生に……」
「もう対処してるだろ」
「脅かすな!」
「今其処に有る危機、だと思うけどな」
侵入者が追い返されず入ってくるってことは、下手をすると了解済みって事だ。この手の事件の傍証は既に存在してるので楽観は出来ない。
再び不安そうになった女子。
会話を聞いていた他の女子と。
「どうするよ」
とクラスの男子。
案外こんな時学校も逃げ場がない。敵が土足で上がってきても迎撃出来ない。
「通報しとけよ」
「通報?」
「来なかったら36条使えるから」
「何事もなかったら?」
別の男子。
何時の間にかHRになっていた。
「#つかえよ、#」
「とりあえず相談しとけって」
昨今の世間の情勢に鑑みると冗談のようで洒落にならない展開もあり得た。学校にあるのは鈍器ぐらいなもの。一部の男子はロッカーをあさり始める。
「駄目だよ。刑法で私戦は禁じられている」
「だから、36刑でさ」
こういった展開は、犯罪検挙率の下がったこの国では自己責任で対処しなければならない内容になりつつあった。
ヘリの音が上空を通過する。かなりの低空。
校庭の連中が歓声を上げる。
「陸自に示威行動を要請してみたんだが」
――サイレンが遠くから輪唱して近づいてきた。
*******//2021年10月14日 木曜日午後 03:55:37
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