第9話 project work space
風の騒ぐ音がした。
「VRかよ」
視界が暗転しホワイトアウトすると、眼前に広がるのは、 何処かの荒野だった。
干上がったカルデラ湖のような、悪くすると熱核兵器の攻撃を食らって出来た、クレーターのような荒野。もしかすると。
「おーい、新人、上向いてると目焼くぞ」
さっき聞いた男の声。
唐突に空が暗転する。
天蓋に何かがぶつかって空にオレンジの亀裂が走る。
暗転した空が纏るように収縮し、黒点になって消失する。
「BHシールド正常に機能中」
BHとはブラックホールだろう。
近年技術的に人工ブラックホールが作れる理論が提唱されているが実際に実験室外で実用化されているのは初めて見た。爆縮とともに特異点に消えていったのはやはり熱核兵器だったのだろう。
「結構な盾ですね」
誰へともなく話しかける。
「LSC25では大体標準だ」
空中から聞こえた声の在処に声の主の立体映像が定位する。
見ている間に加藤の姿が男の隣に定位した。
「部隊長の2nd。名はまだ明かさない」
******* *******
内燃機関車で荒野を一時間ほどカルデラの外へと移動した。
カルデラ内とあまり変わりない閑散とした街区へでた。
さっきの荒野はなぜ攻撃されたのだろう。
戦争中なのだろうか。
疑問に思っていると加藤が応える。
「カルデラには元ゲートセンターがあって、最初の熱核処理地になった。移動元からゲートへのルートが再設定できていないので、未だ前のゲートセンターに出現する。今乗り込もうとしているのは新市街のゲートセンター攻撃が及ばないよう、情報的にカルデラの中に在る事に成っている。」
やはり戦争中か。
「欠員が出来たので隊員候補として推した」
「どこかと戦争中らしいね、何処?」
「此処は戦地だ。LSC25に特定国家の支配権はない」
「覇権争いか」
「降り掛かった火の粉だ」
BHで日を遮られない空は雲も無いような青空だった。
クレーターを出て見えた町の様子は現代とあまり変わらなかった。どの店舗も住宅も、二十一世紀の世界によくにていた。
違うといえば、街の中心に城が在る事ぐらいだった。
車はそのまま城へと向かった。
******* *******
城は白色に塗られた煉瓦づくりで、熱には強そうだった。
謁見の間と称する大部屋へ着くと、左右に並んだ家臣たちの一番奥に、「王」らしき人の立体映像が椅子に座っていた。
王様の前まで呼ばれ、つい、王様の顔を見てしまった。
見はしたのだが、保護がかかっていて、誰とも判別つかなかった。
「汝の名は、未だ無い。」
誰何されず、王様にいきなり宣告されてしまった。
「後は大臣が取り計らうだろう。報告は不要。細々としたことは1stに聞くとよい」
五分とかからず謁見は終わった。
「無名は嫌だな」
「働き次第で名は付けられる」
「俺もここではまだナンバーだ」
この世界はWork Space,と言う事らしい。
何処かで目覚ましのアラームが鳴っていた。
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