第51話 25 蛍火の残照



ロードの兵に背中からバッサリ切られた。

かなり強い衝撃が背中を襲った。

切り裂かれた上着を一枚脱いで敵将へ放る。

下に着ていたライフジャケットを左手で摘まんで、

「新素材なんだ」


******* *******


「首が長くなる所だったわ」

見者は会うなりそう言った。

地下墳墓の納棺室。

LEDのデイライトが六人を照らす。

「どうやってここへ」

「長くなるけど、聞く?」

梅田は冗談を言う時、宙を仰ぐ癖があるようだった。


「可能性世界と言うのを、此処では或る世界から分岐した現実化可能な世界を可能世界と言う事にする。この時重要なのは同じ一つの因から複数の果が得られるかどうかで、得られるとするのが可能世界。得られないとするのが決定論的世界観。」

「梅田って哲学得意だった?」

梅田は続ける。

「可能世界論でよく問題にされるのが自由意志。決定論的な世界に自由意志が加わることで可能世界が可能である、と言える。それをも包含して決定論的世界を説いたのが、予定調和。貴方は、、、、信じますか?」

「いいえ。全然」

「実は私も。」

「どうやってここへ来たかじゃなかったっけ」

「所謂cold sleepで。」

「あれって実用だったけ」

「仮死状態にして、身体を保存する。実用化されて五十年近く経ってるけど、あまり普及して無かったみたい。某北の国が研究の先端を行ってたみたい」

「実験で、来たの?」

「待っていた、って言ったでしょ」

「よければ、可能世界の話の続きを」

腰の折れかけた話を2nd が持ち直させる。

「もう、会った?」

「誰に?」

「まだね。此処は何処だか知っている?」

「分からないから此処ヘ来ているとも言える」

「コールドスリープで来たのよ?」

「ただ単に元の世界の未来だと、言うのかな」

「何処だと思ったの」

「仮想現実。かな。」

「では、私は。実在?幻影?」

梅田の方が此処は長いのだろう。

色々知ってそうだった。

実在か幻影かって。視覚ではなく触覚に頼ってみるという方法もあるにはあるが。

無駄だろう。

仮想現実なのだから。

味覚も嗅覚も此処の全体が幻影なら。

「幻影だとして、俺は?実在、幻影?」

梅田は答えなかった。

「疲れてきた。結局帰れるのかな、帰れないのかな」

「可能かどうか考えるのにもう少し可能世界について考える必要があるわ」

「可能世界的だね」

「因果に訳して考えてそれが対のようなものだと考えるとひどく不都合な解が出る。ナイって仏教徒だったよね」

「だとして、何?」

「因が果に常に一対一対応ならば意志に関係なく、成仏、不成仏が既に決定されていると言う事。修行の意志まで含めれば予定調和の決定論でしかないこと。」

「やる奴はやるし、やらない奴はやらない。成仏する奴はどの道成仏するし、しない奴はどう頑張っても成仏しない、か。困ったね。」

「可能で無ければ、何も変わらない」

「だが実際には、修行することで成仏に至る」

「このまま何も変わらない、と感じると、地獄よ」


「選んで。何処へ帰りたい?」


******* *******


「また戻ってくる?」

「多分」

「私が消える前に。私はここを動けないから」


******* *******



「復これか?」

「同じ方法で来れば同じ所へ着くだろうと言う推理」

「私は何時もこれなんだが」

慣れているので2ndも加藤も美容室の被り物を一人で支障なくセット。

デフォルトとフィレトはアシスタンに手伝ってもらいながらセッティングしていた。

「わたし、あまり。。。」

被り物のサイズの合わないデフォルトは不安げだった。

「スリープ中に襲われたりしないのでしょうか」

フィレトの懸念も最もだった。


******* *******


「統合側からの攻撃停止中。半径百キロに敵機無」

「リーサルリアクターバッテリー換装完了」

「統合側諸国は沈黙中」

「住民の避難、完全に終了」

「第二RR起動準備終了」

「衛星軌道上、ミサイル発射体制確認」

「RR2から司令部へ最終意思確認?」


「RR2起動」

召喚された「異」は勢力を拡大していた。


******* *******


敵将は驚いたようだった。

恐らくネイティブ何だろう。

科学由来の武器に弱い。

「逃げるところだったんだが」

「大人しく投降したらどうだ」

自分がまだ優位と思ってうるのだろう。

「投降するといいよ」

指で背後をさしてやる。

振り向いた敵将の後ろから、此方の軍勢が迫っていた。

その数は凡そ六百。

諦めたようにうな垂れた敵将が空を仰ぐ。

プロペラ機の音が聞こえてきた。

「勝ち誇るのはまだ早かったようだな」

「そう?」


******* *******


「ここか。」

鍾乳洞のような洞窟の脇にあるハッチ。


エレベーター等既にいかれている。

非常階段。

これを一キロほど下がるというと、一体何段あるのだろう?


見覚えのあるフロア。

100㎡程の何もない部屋。

記憶を辿る。



「よく来た。冒険者ナイ」




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