最後のメッセージ

「明日の二十時前後に、人が訪ねてくるはずだ。絶対に家へ入れるな。もし入れてしまうと君の命が危ない」


 柊二は、河合から借りた装置の上部に付いているマイクに向かって、できるだけ感情を抑え淡々と原稿を読み上げた後、香澄の日記をそっと閉じた。

 綺麗な文字、、、香澄が授業中、ノートに文字を綴る姿を思い出す。彼女が毎日、その日の出来事を書き留めてくれたおかげで、僕は過去にメッセージを送ることが出来た。加えて、二十三時に聞こえて来た声の内容も香澄はしっかりと綴っていた。だから、僕はノートを見ながら一言一句間違わないよう過去へ言葉を送る。


 河合の話では、未来から過去に言葉を送ることができるのは十三回だけで、話が出来る時間は最長でも二十秒。だが、一回毎に一秒ずつ短くなるということなので、十三回目に使える時間はたったの七秒なのだ。


 これまで、香澄に危険なことが起きる前日に、この機械を起動させメッセージを投げかけてきた。そして、香澄を助けるべく、四年前の僕に向かっても数度、この機械を使って未来からの言葉を送っていたのだが、どこまで当時の僕が信用したかどうかわからない。


 そして、香澄に送ったこの七秒のメッセージがいよいよ最後になった。

 香澄は、僕が送ったメッセージ通り動いてくれるだろうか?


 過去を変えると時空に大きな歪みが起き、それを元に戻そうという力が働く。そうなると結果的に過去は変わらないのだと河合に聞いた。だからこそ、必要最低限の行動が必要だと、、、。

 そう、香澄を助けるにしても、ほんの少しだけしか過去を変えれない。河合の研究では、あと数十年経てばその歪みも計算でき、もっと効率よく過去を変えることが出来るはずだと言うことだが、現時点で確証がないものを長い年月待つことはできない。


 四年前の僕がきっと香澄に手助けをして救ってくれるはずだ。

 僕は、祈るような気持ちで部屋を出て、香澄が眠っている病院に向かった。


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 柊二君が今度来た時、飲もうと奮発して買った紅茶を試しにいれてみたが、結局一口も飲まないままでいる。

 昨夜の二十三時に聞こえてきた声は、これまで以上に緊迫した雰囲気が漂ってきた。本当に今日、誰かが訪ねてくるのだろうか?そして、その人を部屋に上げると私はもしかして死ぬことになるのだろうか?

 見ず知らずの人を部屋に上げるなんてことは考えられない。一体、誰がこの部屋に来るというのだろうか?


「ピンポーン」


 部屋のチャイムが鳴った。

私は、震える声で、「どちら様ですか?」と尋ねる。


「すいません。毎読新聞です。まだ、新聞とられてないですよね!?実は、今なら一ヶ月無料に出来ますので、半年だけでいいので購読してくれませんか?」


「ごめんなさい。結構です」と言った後、私は、思わず床にしゃがみ込んでしまった。






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