ペンダント

 翌朝、私は、頭を撫でられ目が覚めた。


「う、、ん?」

「おはようっ」


 私は目を開ける。すると目の前に柊二君の顔があった。

 彼への思いはますます高まっていく。それは、天井を知らないくらいだ。


「すぐに朝ご飯作るから待っててね」


 私は、パジャマ代わりにしているスウェットを着たまま、トーストを焼いて紅茶をマグカップに注ぐ準備をする。

 そして、トマトときゅうりを切っただけの簡単なサラダに生ハムを添えテーブルに置いた。


「お待たせしました!」

「お〜。美味しそう!いただきます」

「簡単なものだけどね。どうぞ!」


「美味い、美味い!いつも菓子パンだからやっぱりトーストにバター、チーズは最高だな〜。ありがとう」


 食べっぷりがとても気持ちがいい。


「そうだ、香澄、、今日って時間ある?」

「うん。大丈夫。今日はずっと空いてるよ」

「そうか、だったら、ちょっと買い物に付き合ってくれる?」

「うん。二人でいれるんだったら何処でもいくけん」


 私は、紅茶を飲みながら、昨夜の事を思い返していた。

 正直、とても恥ずかしい。

 でも、昨夜、私は柊二君を求めていた。そして、その気持ちを受け取ってくれくれたことや僕も同じだよと言ってくれた言葉に偽りはないと感じていた。



 遅めの朝食を食べた私達は、東西線の早稲田駅から地下鉄にのり、九段下で乗り換え渋谷に来ていた。


「今日もほんと人が多いよな」


 柊二君はさりげなく私と手を繋ぐ。

 このぬくもりが私を心の底まで安心させる。本当に不思議だ。


「ここ、ここ。ちょっと見ていいかな」


 柊二君が入ったお店は、シルバーアクセサリーの専門店で値段も結構するみたいだ。柊二君は、店員の若いスタッフに色々と聞いてる。

すると、「香澄、こっちこっち」と手招きされ私は近づいて行く。


「彼女さんですか?可愛い方ですね。なら、これがいいと思いますよ」


 女性スタッフが手に持っているのは、ティアドロップ型のペンダントだった。


「はい。後ろを向いてください。つけてみましょう」

「え、、ええ??」


 手慣れた感じでスタッフは私にペンダントをつける。


「はい。こちらを向いてみてください。鏡はここですよ」

「あー、、」


 私は言葉を出す事が出来なかった。

 自分で言うのも変だが、とても似合っていると感じた。


「すごい似合ってるやん。あの、これをいただけますか?このままつけていきますので」


 私がまだ唖然としている中、柊二君はレジに向かい支払を済ませてしまった。


「さぁ、行こうか」


 私達は、店をでる。


「柊二君、、あの、、本当にありがとう。凄く嬉しい」

「うん。どうも照れるな。女性にアクセサリーを買うなんて初めてなんだ。思ってた以上に照れるわ。でさ、勝手に選んでしまったけど、良かったかな。でもさ、凄く似合ってるよ」


 顔を真っ赤にしながら一歩先を歩く柊二君の腕に、私は飛びつくように絡みつく。


「大事にする。ずっと……」


 その後、スパゲティーが評判の店でランチを取り、ぶらぶらとウィンドーショッピングを楽しんだ後、帰路についた私達は神田川沿いを歩いていた。


「あれ、柊二と香澄ちゃん!!」

「お〜、、、坂田。こんなところで奇遇だな」

「ちょっと提出する書類があって、大学に行ったんだよ。で、ちょっと考え事したかったから神田川沿いをぶらぶら散歩してるって訳。あっ、二人はデート中?ごめん。邪魔しちゃったね〜」


「邪魔だなんて、、」


 私は顔を赤くする。


「そうだ。美穂ちゃん。私のアパート、すぐそこなんだけど、お茶でもしに来ない?」

「えー、、邪魔しちゃいそうだけど、、、。いいの?」


「勿論! 柊二君もいいでしょう?」

「ああ、じゃあ、三人でスィーツでも食べるか!」

「「「賛成!!!」」」


 途中寄り道をしてショートケーキを買った私達は、六畳一間の狭い部屋で珈琲を飲みながら談笑している。

 大学に入って、仲間達とたわいもない話をすることを夢見ていた私はとても嬉しくなっていた。


「香澄ちゃんの部屋ってとても綺麗だね〜。本人の性格ってだいたい部屋を見たらわかるけど、ほんと綺麗。それに比べて、私の部屋は・・・・。あーあ」

「坂田の部屋って、広いけど結構荒れてたもんな」


 柊二君が笑う。


「えっ?」


 私は、両手で口を塞いだが、思わず声を出してしまった。


「香澄ちゃん、、違う違う!!!前に私の部屋で課題研究をやったんだけど、柊二も含めて5人来たんだよ。深読みしないでね」

「そうだよ、、、香澄。僕はずっと香澄だけしか見てないからさ」

「柊二って、部外者の私がいるのにそういうことほんと平気で言えるんだから凄いわ」


 美穂ちゃんはあきれている。

 私はほっとしつつも嫉妬した自分がとても恥ずかしく顔を赤らめていた。


「じゃあ、私はそろそろ行くね。香澄ちゃん、柊二、今日はありがとう。楽しかったよ」

「うん、またいつでも来てね」

「ありがとう。じゃあね」

「気を付けて帰れよ」


 二人になった途端に、さっきの勘違いが気まずい。


「香澄、、さっきのことは本当だし、正直一目惚れというか、、香澄のことしか考えてないんだ」


 柊二君は、私を抱き寄せる。そして、私も胸に顔を埋める。


「あのさ、、僕はいつでもここに来てもいいんだよね」

「うん。私も一人はやっぱり寂しいから。あっ、そうだ。この部屋の合鍵を渡してもいい?いつでも気軽に来てね。そして、もしも私がいない時でも中に入っていていいから。でも、日記だけは見たら絶対に駄目やけんね!」

「わかったわかった!そう何度も言われると逆に見たくなるんだよ。でも、見ません。神に誓って!」


右手を挙げるその仕草を見て、私が笑うと柊二君も最高の笑顔を見せてくれた。







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