二つの事件

 駅まで全速で走った。ただ、ひたすら走った。

 いつもは距離を感じない駅までの細い道が今日はやたらと長く感じる。


 明日朝、警察署に出向き、事情聴取を受けることを約束した僕は漸く警察官から解放されたのだった。三十分で行くと言ったが、この時点ですでにその時間は過ぎていた。心細い思いをさせているのだろうな、、僕は、彼女が泣いている姿を思い浮かべる。

 丁度ホームに滑り込んで来た電車に飛び乗った僕は、ズボンのポケットからスマホを取り画面を眺める。そこには、美依由からの着信記録が並んでいた。

 僕は、メッセージで、今電車に乗ったことや少し遅れてしまうことを入力し送信ボタンを押す。


「わかりました。待ってます。気をつけて」


 彼女からのメッセージはすぐにやって来た。きっとスマホを握りしめていたのだろう。しかし、彼女が無事であることがわかり、僕は「ふう」と息を吐き出した。


 同じ日に起きたこの事件は、間違いなく同一人物によるものだろう。車を使えば、僕のアパートで放火をした後、彼女のマンションに行くのは、そう時間をかけずに行けるはずだ。


 僕は、電車のドアにもたれたまま流れる灯りを見つめている。

 この不安な気持ちは何だろう。何かを見落としているのではないだろうか?


 彼女の最寄り駅の改札を出ると、僕はまた走り出す。

 自転車に乗った小学生、会社帰りのサラリーマン、買い物袋を下げた主婦などがゆっくりと歩いている。避けながらもスピードを落とさず先に進む。コンビニを抜けて、この路地を左折すればもうすぐ彼女のマンションだ。


 駐車している車を追い越す。

 その時、背後で、タイヤが動く音が聞こえた。


「ギュウアー!!!!」


 ホイルスピーンでタイヤが絶叫を上げている。

 急激に上がったエンジン音が僕を恐怖に陥れる。後ろを振り向くとライトが急にハイビームになった。眩しい!!


「うわぁ!!!!」


 僕は転げるようにして右斜め前に転がり込んだ。

 何とかその車を間一髪避けることが出来たようだ。砂利が多いこの路地が幸いした。タイヤ音のおかげで僕は何とか助かることが出来たようだ。


 僕を狙った車は、今度はライトを消し、猛スピードで直進していった。

 暗闇のせいで、ナンバープレートは見えなかったが、車種と色はなんとなく分かった。


 それにしても何故、犯人は僕を狙うのだろうか?彼女をそんなにも自分のものにしたいのだろうか?

 彼女にまとわりく犯人のねばっとした感情を想像するだけで気色悪い。


 その時、スマホが振動した。電話は彼女だった。


「妹尾さん、さっき外で凄い音が聞こえたんです。大丈夫ですか?」

「うん。なんとかね、大丈夫。ごめんな遅くなって。今、玄関に着いたから。じゃあ、部屋番号を押すよ」

「はい」


 ロックされていたマンションのドアが静かに開く。

 僕は、エレベーターに乗ると、彼女の階の番号を押す。


 色んな意味で長い夜になりそうだ・・・。




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