長い夜
僕は、今、美依由の部屋にいる。
結局、伝えていた時間より一時間も遅れて到着した僕を彼女は心待ちにしていようだ。
「妹尾さん!!」
玄関のドアを開けるなり彼女は僕に抱きついてきた。
頬には涙が伝っている。自分が死ぬと告げられている非日常の中で起きる様々な悪意は、彼女の心に最大限のダメージを与えてきたに違いない。
怖かっただろう。辛かっただろう・・・。
「あの、、ごめんなさい。私、、つい、、甘えちゃって」
僕を見上げる彼女の顔はとても愛らしい。
「いや、いいよ。僕もその、、なんというか、、その、、とても嬉しいし」
照れながらなんとか言葉を出した僕に、彼女は「もう少しいいですか?このままで・・・」と呟いた。
それからどれくらい時間が経っただろう?柔らかく抱き合っていた僕たちは、ぎこちなくゆっくりと離れる。
「もう大丈夫?」
「はい。落ち着きました。ありがとう」
部屋着だろうか?薄いグレーの大きめのパーカーがとても似合っている。
僕は、顔が赤くなっているのを悟られないように、トートバックからパソコンを取り出す。
「じゃあ、早速、美依由ちゃんに、見てもらいたいものがあるんだ」
これまでライカが撮った四枚の内、二枚は未来の写真、そして残りの二枚は過去の写真だった。このライカは彼女を明るい未来へと導く為に僕らに何かを伝えている。そんな事を考えながら、全ての写真をパソコンに立ちあげた僕は、渋谷のラブホ街が映った一枚を出来る限りノイズを消しつつ、最大に拡大していった。
「この女性に見覚えないかな?多分、高校生じゃないかなと思って」
台所からジュースを持って来てくれた彼女がパソコンを覗き込む。
なんだかとても良い香りがして、僕の鼓動はさらにが早くなる。
「妹尾さん!!この制服、うちの学校のものです」
「えっ!!!」
僕と彼女は驚きの余り見つめ合う。
「それに、これって、、、まさか、、、、」
「えっ、知ってる子なの?」
「はい。ここを見て下さい。このバックに着いている小さなぬいぐるみ。これは、私が両親に会いに札幌に行った際、新千歳空港で買ったお土産なんです。そして、このキャラクターは、北海道のゆるキャラで、ジンギスカンのギスくんといって、空港だけでしか買えないんです」
彼女は、じっとこの写真を見つめている。
「妹尾さん、この子は、、きっと・・・」
彼女は意を決して言葉を紡ぐ。
「この子は、真結です。多分、、。いいえ、絶対にそうです。この後ろ姿も間違いありません。なんで、こんな所を男性と歩いているの?真結・・・」
その時だった、横にしていたトートバックの中にあるライカが「カシャッ」と音を立てた。その音に気づいた僕たちは、驚きの余り見つめあう。
「喫茶瀬音里でしか写真は撮れないはずだけど、もしかして、最後の一枚が僕たちに届いたのかもしれない」
僕は、早速SDカードをノートパソコンに挿入し、画像データをクリックする。すると一枚の写真がパソコンの画面に映し出された。
「これは・・・?一体・・・」
そこには、教壇に立ち板書をしている教師の後ろ姿とそれを見つめる女子生徒が映っていた。教室の窓からは、満開の桜の木が見える。ということは、この写真は今年の三月か四月。いや、今年は例年より開花が遅かった。ということは、四月か・・・。
結局、その日は彼女の家に泊まることにした。
勿論、部屋は別々だ。僕は彼女が貸してくれた布団にくるまってソファーで眠ろうとしたが、目が冴えてとても眠れる状態ではなかった。
明日、彼女に真結という女子生徒と話をしてもらわなければならない。そして、バスケットボールの顧問をしている
明日やる事を頭で考えているとドアが開く音が聞こえた。
「妹尾さん。まだ起きてますか?私、、眠れないんです。なので、ここにもう少しいてもいいですか?」
部屋に戻って寝ようとした彼女もどうやら寝付けなかったらしい。
もう眠ることを諦めた僕らは、様々な事に対して語り合った。五枚揃った写真をパソコン上に並べ、思いついたことを話していく。客観的に冷静に幾つものケースを考えブレストークをしていく。結果、僕らは一つの仮定にたどり着いたのだった。
そうこうしていう間に遮光カーテンの隙間から光が漏れて来た。
長い夜が明けたようだ。
彼女は、洗面台で顔を洗っている。
僕は、借りた布団を三つ折りにたたむと、テーブルの椅子に座りパソコンの画面に映る五枚の写真をもう一度見ていた。
真結という女子生徒は、教師と援交をしているのか?だが一体なぜ、その教師が美依由を狙うのだろうか?
一晩色んなことを考えたが、この疑問は解決出来そうにない。ここまで来れば直接本人に聞くことが一番の解決策なのだろう。
そして、導いた答えが正しければ犯人はあいつだ!
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