確信

 保健室で起きたことを言えないまま、神田川沿いを歩き自分のアパートに向かった。横には、コンビニで買った私の荷物を持ってくれている柊二君がいる。


 たわいもないことを話しているうちに自分のアパートが徐々に近づいてきた。部屋に着いたら柊二君になんていえばいいか、ずっと頭で考えていたが、私は答えを出せないでいた。


「わざわざ来てもらったし、、コーヒーでも飲んでいって」


 最後の最後に勇気を振り絞り、彼に声をかけたのだが、「今日はもう早く休んだ方が良いよ。次の機会にゆっくりとお邪魔させてもらうから」と言って、帰っていった。何度も振り返っては大きく手を振りながら……。


 なんだか拍子抜けした気持ちになった私は、部屋のベットに横たわって目を閉じた。すると、昨夜、聞こえてきた声と今日起きたことが、頭の中をぐるぐると回わりだした。とても気分が悪い。だが、逃げてばかりはいられないとも私は決意していた。もう一度しっかりとその声のことを調べなければならない。


 私は、ベットから起き上がり、冷蔵庫から水を取り出し口に含んだ。机の上にある時計を見ると午後七時。午後十一時まではまだ四時間程ある。


 その時、隣の部屋のドア付近で話す声が聞こえた。


「全ての荷物を積み終わりました。忘れているものはないですね。はい。では、明日の午前九時に現地に到着しますから、明日もよろしくお願いします」


 どうやら、隣の住人が引っ越ししていくようだ。一階に五つ、二階に四つの部屋があるこの小さなこのアパートは、古いものの大学に近いだけに、全ての部屋はすぐに埋まる物件だと不動産会社のスタッフから聞いていたが、この時期に空くのは珍しいのではないだろうか。大学を辞めたのだろうか、もしくは、もっと綺麗で便利な場所に引っ越すのだろうか。


 余り食欲はないが、柊二君に痩せ過ぎと言われたからには、何も食べないわけにはいかない。冷蔵庫の野菜室に少しだけキャベツが残っていたことを思い出した私は、台所の上にある扉を開け、棒状の博多ラーメンを取り出す。

 鍋に水を入れ火をかけ、キャベツを適当にちぎり入れていく。沸騰したら棒ラーメンを入れて一分茹でるともう完成だ。バリカタの状態の麺で食べてこそ博多ラーメンは美味しいと思う。流石に、ラーメンをすする姿を柊二君にはまだ見られたくないが、些細なメニューだけどいつか一緒に食べたいと思っていた。

 

 食べ終えた私は、じっと台所に視線を向ける。そう言えば、昨日の声は台所の辺りから聞こえてきたのでは無いだろうか!?椅子を台所まで運び、扉の中を奥までチェックしてみるが、穴のようなものは何も無い。


「換気扇?なのかな?」


 換気扇のスイッチを押す。ブーンという音が小さな部屋に響き渡った。

わからない。誰なんだろう?いたずら?いや、そうではないだろう。全てその声の通りになっている。やはり、未来からの声なのではないだろうか?

 色々なことを考えながら、お風呂に入り髪を乾かしていたら午後十一時が迫って来た。


 時計を見る。三分前だ。私はじっと時計だけを見つめる。二分、一分とカウントダウンをしていくといよいよ午後十一時となった。


 「今起きている事を信頼出来る人に全て話をする方がいい。そうしなければ、君は大変なことに巻き込まれてしまう」



 来た。聞こえた。やはり台所だ。換気扇から声が聞こえてきたような気がした。


「待って、貴方は誰?なぜ、私に?」


 換気扇に向けて話しかけるが、何も応答は無かった……。


 ただ、聞こえて来る声は、私のことを思い発している言葉だと感じた。

 理由はない。ただ、きっとそうに違いないと私は確信していた。




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