危険のはじまり
「今起きている事を信頼出来る人に全て話をする方がいい。そうしなければ、君は大変なことに巻き込まれてしまう」
あの日以来、未来を語る声は聞こえなくなっていた。今日で、丁度三ヶ月になる。あれは、一体何だったんだろう?聞こえたら聞こえたで怖いと思うのに、午後十一時になるとあの声を待っている自分がいた。
季節は夏の香りを残しつつもゆっくりともの寂しげな初秋へと進んでいる。
この頃になるとあれだけつまらなかった大学生活は、十分に満たされたものになっていた。
柊二君を通じ、まだ友達と呼べるまでは仲良くなってはないが、複数の人とアドレスを交換するなどして、少しずつ交流が出来るようになっていたのだ。そのおかげか、夜中急に胸を締め付けてきたあの孤独感を感じなくなってきていた。
ただ、私は、坂田美穂という女子がどうしても苦手だった。彼女は、私が柊二君と会話をしたり、一緒に帰ろうとすると、いつも割りこんで来るのだ。きっと、彼女も柊二君に好意をもっているのではないだろうか?そして、柊二君は彼女のことをどう思っているのだろう?
十一月三日、私は、柊二君に誘われ、ミシュランガイドで富士山と共に最高ランクの星三つを獲得した高尾山に来ていた。ケーブルカーを使うと楽に登れるのだが、紅葉がピークなのに楽しまないと駄目だよねと私達は登山ルート六号路を歩いていた。
たわいも無い話をしながら紅葉を眺め、美味しい空気を吸いながら歩く時間は本当に楽しく、私はこの場所に連れてきてくれた柊二君に感謝をしていた。
見事に染まっている紅葉を見ると言葉を無くしてしまうくらい感動する。特に、何色もの紅が折り重なった素晴らしい情景を見つけると私は足を止めては、スマホで撮影をしていた。
七合目位まで登った時、上の方から「落石だ!気を付けろ!」と声が聞こえた。
黒い背景の中に光る紅葉を撮影していた私は、スマホの画面から山道に視線を移す。すると、人の頭くらいの石が凄いスピードで自分に向かって転げ落ちてきているのだ。
「危ない!!!!!」
柊二君が私の腕を力の限り引っ張った。
不気味な音を立て転げ落ちてきた石は、私をかすめすぐ横を通り過ぎていった。
柊二君は私を抱きしめていた。
「大丈夫?怪我は?」
「うん、ちょっと足を捻ったみたいだけど、大丈夫」
「あっ、ごめん。いや、、その、、」
ふと我に返った彼は私を抱きしめていることに慌てている。
私は、彼の腕にもたれながら、足の痛みを忘れ笑っていた。
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