新しい友人
私は、部屋のベッドに寄りかかり両膝を抱えこれまでのことを思い返していた。
柊二君に会うきっかけとなった日のこと、保健室で誰かに首を絞められた件や新宿駅のホームから落とされそうになった件、そして、私を付けてくる男のこと……。考えても考えても答えなど出るはずがない。だけど、考えていないと恐怖で頭がおかしくなりそうだった。
私へのメッセージが換気扇から聞こえてくるのは、月に一度くらいだったが、少しずつ聞こえてくる時間が短くなっている気がする。
「未来からの、、、声!?」
私に話しかける声の持ち主は、誰だかわからない。だけど、私のことをとても大事に思ってくれる人からのものだとなぜだかそう感じていた。
突然、隣の壁が「ドンドン、ドンドン」と叩かれた。
私は、はっと息をのむ。
大きな音を立てているわけではないのに、一体なんなのだろう?明らかにわざと壁を叩いているような気がした。
音がなった方の壁を見る。
「窓、、閉めてなかった……」
掃除をした時に窓を少しだけ開けていたことをすっかり忘れていた。
もしも、このままベットに入ってしまうと、窓を開けたまま眠ってしまう可能性もあった。先日も知らない男に付けられるなど自分の周りになにかよからぬことが起きてきそうな気配を感じているくせに本当に不用心だった。
もしかして、先月引っ越して来た隣人が教えてくれたのだろうか?今度、タイミングがあえば、一度挨拶が出来ればいいなと思った。
東京に来て二度目の春になった。
あれから私の周りでは、不可解なことは起きていない。
大学にも新しい一年生が入って来た。
私がそうだったように、これからの大学生活への希望と不安が入り交じった何とも言えない気持ちを味わっている人がきっといるだろう。
でも、大丈夫。きっと素敵大学生活が送れるよと大声で言いたくなる。それくらい、今の香澄は幸せだった。
数人の学生と談笑していた坂田さんが私を見つけると急に近づいて来た。
「香澄ちゃん。今日の午後は空いてる?」
今まで挨拶をするくらいで、特に二人で話をしたこともないのに、なぜ坂田さんが私に声を掛けてきたのかわからないでいた。
「ちょっとさ、確認したいことがあって。すぐ終わるよ。だからいいでしょう?」
断れる雰囲気ではなかった私は、その約束を受けることにした。
待ち合わせした大学の喫茶室に少し早めに来た私は、カフェオレを頼み、スマホを眺めている。スマホのアルバムには、柊二君と二人で撮った写真が数枚入っている。ちょっと心細い時は、柊二君の写真を眺めると不思議と落ち着くのだ。
「ごめん〜。ありがとう。わざわざ来てくれて」
坂田さんが駆け寄ってくる。
「えっと、私はアイスコーヒーで。はい、シロップはいりません」
いつもながら都会の女性という感じで、着ている服はとてもセンスがいい。どこのショップで売っているのだろうか?自分はいつもスニーカーだが、彼女は高いヒールを履いている。しかも、それが着ているピンクの服ととても合っている。私は、ついつい見とれていた。
「えっと、井吹さんだよね。私は、坂田美穂。初めましてじゃないけど、これまできちんと挨拶も出来てなくてごめんなさい!」
「私も一緒。ずっと坂田さんの事を知ってたけどこちらこそごめんなさい。改めまして、井吹香澄です」
挨拶をし終わると、ほぼ同時に二人とも「ふふふ」と笑った。
「あの、急に呼び出してしまってさ、本当に悪かったんだけど、私は気になったらそれをはっきりさせておかないと気が済まないたちなのよ。ほんと、ごめんね。で、単刀直入に聞くけど、柊二と香澄ちゃんは付き合ってるの?」
私が、「付き合ってるの?」の言葉で顔が赤くなってしまったので、坂田さんはすぐにわかったようだ。
「あー、やっぱりね。そうなんだ〜。いったいいつからなの?」
「うん、、付き合って四ヶ月になるかな。それまでは、仲の良い友達という感じだったのだけど、、。これまでも、私はずっと柊二君に頼ってしまってたけん、今は凄く嬉しい……」
「うわぁ。ご馳走様。」
思わず博多弁がでてしまうが、坂田は突っ込みをいれることもなく、話を続ける。
「実は、私の友達が、柊二のことを狙っていてと言うか、凄く好きになっていて、告白するぞと息巻いていたら、急に香澄ちゃんと二人仲良く歩いてる事が多くなったのに気づいてさ、、。私に、あの子に聞いてきてとせがむんだよね。だけど、柊二のあの幸せそうな顔みると、ほんとに香澄ちゃんが好きなのわかるし、諦めた方がいいよと言い聞かせてるんだけど、果たしてどうなることやら・・・。あっ、でも、私がついてるから心配しないで。絶対に邪魔はさせないからさ」
「あ、ありがとう。私ももっともっと頑張るつもり。あの、、坂田さん、、、もし良ければ、私と友達になってもらえないですか?」
「なに言ってるのよ。もう、昔から友達でしょう!? 今度、女子会やるから香澄ちゃんも出てよ。みんなでわいわいやろうよ!」
「うん、ありがとう。是非声を掛けて!」
これまで起きた嫌なことが一気に薄れて行く。
柊二君のおかげで友達が一人出来た……。
香澄の心は幸せな気持ちで満ち足りていた。
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