未来からの写真?

「大丈夫!?」


 僕は、恐怖で顔面が蒼白になっている彼女に声を掛ける。


「これが本当なのか、正直、僕には分からない。だけど、君には知らせておかなきゃって。だけど、気が焦ってばかりで、君に説明する手順を考えてなくて。ただ、一応は考えながら話したつもりだけど、結果的にストレートに話をしてしまったね。悪戯に君を混乱させて怖がらせちゃったかな。ほんとに、ごめん」


 彼女は、「いえ」とつぶやき、静かにコーヒーカップを持つと口元に運んだ。

そして、僕の方を見つめて話しだした。


「全く思いもしない事だったので、頭が大混乱しています。だけど、妹尾さんとはまだ会って少しですが信頼に値する方だと私は感じています。今回、妹尾さんに電話を掛けたのも凄く勇気がいったんですよ。昨日、カメラを触りながらすごくキラキラしていたお顔を見ていたので、きっと素敵な方なんだろうなと思って・・・」


「あ、そ、そうなの!? ちょっと褒めすぎだと思うけどね。しかし、そう言ってもらえると嬉しいよ」


 僕は、ほっと胸をなで下ろす。


「私は、あの喫茶店でバイトをしてまだ半月そこそこなんです。友人がバイトをしていたんですが、怪我しちゃって。その友人に、代わりになんとか入って欲しいと泣きつかれて・・・。私自身は、接客業には到底向いてない性格なんですけど、これでも頑張ってやってるんです。でも、あの店にいるとなんだか凄く気怠くなってしまって、店長にもあまり好かれてない気がしています」


 そうか、あの気怠い感じは彼女の本来のものではなく、何かがそうさせていたのかもしれないと僕は感じていた。


「それに、自慢とかでは無いんですが、これまでも男の人に声を掛けられることがあって。その対処の仕方もわからないので、その度に戸惑ってばかりだったんです。そういうのも、他のスタッフをイライラさせているのかもしれないなと思っています。そう、あそこでは私、、浮いているんです」


 とても可愛い顔をした彼女が自虐的な言葉を発する姿に、僕はちょっと驚いていた。


「いやいや、それって、その場で上手く断るのは難しいよ。君の責任ではないと思うけど」

「いえ、、やはり私がはっきり自分の気持ちを表すことが出来ないから、きっと隙が多いのだと思っています。直したいんですけど、なかなか・・・・・・」


 彼女は、水の入ったグラスを持ちごくごくっと飲んだ。

 そのグラスをテーブルに置くと同時に、指でリップの跡を拭う。


「実はこの前、バイトが終わって帰宅する際、誰かにつけてこられたこともあって・・・。行き先を変えて電車を何度も乗り継いだので、私の家は分かってないと思うのですが、とても怖くて。実は、ずっと誰かに相談したかったんです」


「ちょっと待って。ストーカーにあっているということなの?もしかしたら、そいつが君をどこからか突き落とす犯人かもしれないよ。思い当たる人はいない?」


 彼女は、「うーん」と言いながら考えている。


「わかりません。声を掛けてきた人の顔はなんとなく覚えているんですが・・・」

「まあ、そうだろうね。もしもそのストーカーの顔を見たら、君はもっと危険なことになっていたと思うし」


 彼女は、両手で顔を隠す。その手が小さく震えているように見える。


「この写真は、きっとこれから起きるであろう未来を予め僕らに通知していると考えれば納得がいくんだ。君がこの危険から回避して欲しいという願いがこの写真に写っているのだとも思う」


 彼女は、こくんと頷いた。


「じゃあ、もう一度、見たくはないと思うけどこの写真をじっくり見て、何かヒントになりそうなものや思い当たるものがないか考えて欲しいんだ」


 僕は、一枚目のどこか高い所から落ちて行く彼女の写真をテーブルの真ん中に置くと彼女はじっとそれを見つめている。


「この後ろにあるのはマンションとかにある貯水槽じゃないかな?」


 僕は、写真の右上に移る灰色のタンクを指さしながら彼女に言葉を発した。


 昨夜からずっとこの写真を眺めていた僕は、背後に映っているタンクはマンションの屋上にあるものではないかと考えていた。だとすれば、屋上に登らなければ大丈夫ということではないだろうか?いや、果たしてそんな簡単なことで変えられるのだろうか?


 いや、変えなければならない。彼女にはなんの罪もない。決して死なせてはならない。僕は、心の底からそう思っていた。



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