告白

「神田さん。もしかして、神田さんは、近いうちに事故に遭うかも知れない・・・」


さっきまでの彼女の柔らかい表情が、驚きと恐怖に支配されて行く様を僕は黙って見ていた。


- - - - - - - -



「あの、すみません。失礼します」


彼女は、千円札をテーブルに置くと同時に席を立ち、店を出て行こうとしている。


「神田さん!待ってください!!」


 僕は、思わず彼女の右腕を掴む。そして、ゆっくりと話し出す。


「少しの間だけ話を聞いて欲しい。僕の事は、まだ信用には足らない事も十分理解してる。ただ、僕はいたって正常なんだ。今から話す不思議な現象を自分でもまだ信じることが出来ない位なんだ。だけど、君の命に関わるかもしれないと思うからこそ、初めてこんな風に強引な手を使って君を呼び出したんだ。そう、僕も勇気を振り絞って行動してるつもりなんだ。まぁ、独りよがりだけどね。信じるか信じないかは、僕の話を聞いてから最後に決めて欲しいんだ」


 彼女は、しばらく僕を見つめると、「わかりました」と小声でいった。

ふと我に返った僕は、「あっ、、ごめん!!!」と掴んでいた右手を離す。今度は僕の方が真っ赤になっていた。


 カウンターの方を見ると、マスターが心配そうに僕らを見ている。僕は、マスターに向かって、「大声出してすみません。大丈夫です」と小声で伝えた。


「さぁ、どこから話そうか・・。一応、時系列的に細かく話をするね」


 彼女はゆっくりと頷く。


「僕は、ずっと新しいカメラが欲しかったんだ。今使っているカメラは高校時代に父から貰ったもので、画素数もこのスマホより悪くてね。だから、ずっとネットで各メーカーのカメラを見ていたんだ。だけど、これというものがなくてさ。なので、実機を見ればもっとイメージが膨らむかなと思って昨日、ヨドハシカメラに行ったんだ。ただ、ここでもかなり長い時間、色んなカメラを触ってみたけど自分にフィットするものがなくて・・・。なので、買わずに店を後にしたんだよ」


僕は、珈琲を一口飲みながら、話の組み立てを考える。


「ヨドハシカメラを出た僕は、正直行くあてがなくて、どうしようと思っていたんだけど、丁度その時、嘘みたいに中古カメラの看板が目に入ってきたんだ。その店に歩いて行くと本当に小さな中古専門店でね。でも凄いカメラの数が展示してあって・・・。正直、色々と目移りしていたんだけど、僕は何故かレジの後ろに置いてあった一台のカメラに目が釘付けになったんだ。結局そのカメラを買うことに決めたんだけど、中古市場でも五十万以上するようなものをその店主は税込み五万で僕に売ってくれたんだ」


「えっ?五十万が五万円? それって、凄くないですか? そんな事をしたら、お店は赤字になるし・・・」


 彼女は、その値段に驚いているようだ。僕は、トートバックから昨日買ったライカを取り出すとテーブルの上に置いた。


「これだよ。ライカというメーカーのM型デジタルというんだ」


 彼女はじっとテーブルの上のライカを見つめている。


「このカメラを昨日、君の働いている泊師堂で触っていたという訳なんだけど、ちょうど君が珈琲を持って来てくれた時、間違ってシャッターを押してしまったんだ。ただ、あの店はとても暗いし、それだと普通写真は映らないんだ。だから僕は気にしなかった。だけど、問題はその後なんだ。僕が珈琲を飲んでいるとカメラが勝手に君の方にレンズを向け、その後確かにシャッター音が鳴ったんだ」


 彼女は、「怖いっ・・・」と呟いたあと、両手で口を押さえている。


「そ、、そんなこと、、あるんですか?普通は、ないですよね?カメラが勝手に?もしかして、心霊現象ですか?」

「いや、全くわからない。僕も半信半疑だったので、家に帰ってすぐにパソコンにSDカードを入れ確認してみたら、確かに二枚の写真が存在したんだ。その二枚を開いてみたら、実はこういう写真だったんだよ」


 僕は、トートバックから取り出したクリアファイルを彼女の前に置く。彼女の顔からは血の気が引き、唇も紫色になっているようだった。






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