写真カフェ光芒
本屋の前で待っていると約束の十五分前なのに、彼女は小走りでやってきた。
「ごめんなさい。お待たせしました」
「い、、いや。まだ、約束の時間になってないから大丈夫だよ」
かなり急いで来てくれたようだ。頬が薄らと桃色になっている。その姿に僕は思わず見とれてしまって声が出ない。すると、微妙な間を嫌ったのか、彼女の方から助け船を出してくれた。
「えっと、これからどうしましょう?」
「あっ、喫茶店のバイトが終わったばかりなのに、本当に申し訳ないけど、ゆっくりと話をしたいので、これからお茶しにいってもいいですか?」
「はい。それで構いません」
「じゃあ、すぐそこに僕が好きなカフェがあるので行きましょう」
今の彼女には、
僕が歩きだすと彼女は微妙な距離を保ちながら左後ろを付いてくる。僕は時折彼女の方を振り向き、歩くスピードを調整していた。その時、ふと男達の視線に気づいた。僕らとすれ違った男性は、ほぼ全員が振り向き、彼女の全身を舐めるように眺め熱い視線を送っていく。そして、彼女の横にいる僕を見た途端、「なんで?」みたいな顔をしていくのだ。確かに、誰が見ても不釣り合いなのは僕自身も承知しているのだが、少し落ち込んでしまう。
五分ほど歩いて、"写真カフェ
ここは、雑居ビルの奥に位置し、二人掛けのテーブルが5つしかない。とてもおだやかな性格のマスターが一人でやっている小さなカフェだ。
実は、新宿三丁目に来た時は、僕も良く使っている。なんといっても、写真が好きなマスターが経営しているだけあって、店の名前にもなっている”光芒”の写真や、カメラやレンズなどが所狭しと飾ってある。
僕は、その中でも北海道の美瑛でマスターが撮ったというどこまでも広がる畑の大地に降り注ぐ光のシャワーの一枚がお気に入りだった。
まだ常連というまでには至ってない僕は、メニューをみながらマスターにぎこちなくオーダーをする。僕も彼女も珈琲を注文した。ここで使用している珈琲豆は、マスターが北海道の旭川にある業者から取り寄せ、自ら焙煎しているらしい。
しばらく、世間話をしていた僕たちにマスターが近寄ってくる。
「はい。お待たせ。彼女さんがブレンドで、こちらがストロングね」
なんとも言えない香りが漂ってくる。
「うわぁ、、良い香り!!」
右手でカップを持ち、早速口に含んだ彼女は、顔全体で満足を表している。
僕はとても幸せな気持ちになった。
彼女の名前は、
近くで見れば見るほど顔のパーツが整っている。本当に美しい、、いや可愛いといった方が彼女を表すのに適しているかも知れない。現在、高校三年生。年齢は、十八歳でもう少し経つと十九歳になるらしい。
僕も一通りの自己紹介を行った。現在、大学一年生。一人暮らしを始め、きままに暮らしていること。趣味は写真で、大学では写真部に所属していることなど、当たり障りのないことを話していたのだが、彼女は、その一つ一つに興味津々で、時には「凄いです」と言ってくれる。僕は、ついつい饒舌になっていた。
「あっ、ごめんね。こういうことを話すために君を呼び出した訳じゃないんだ」
僕は少し背筋を伸ばしながら彼女の瞳を見つめる。
「あっ、そうですね。実は、私、男性と二人でカフェっていうのが初めてなので。それでちょっと舞い上がってました」
「えっ?」
「あっ、そこは聞かなくていいです。忘れてください」
彼女が両手で顔を仰いでいるのは、真っ赤な顔が関係するのだろう。
その仕草の一つ一つがとても可愛い。
僕は、再度背筋を伸ばし、彼女に向かってこう切り出した。
「神田さん。もしかして、神田さんは、近いうちに事故に遭うかも知れない・・・」
さっきまでの彼女の柔らかい表情が、驚きと恐怖に支配されて行く様を僕は黙って見ていた。
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