勇気
夕方、いつもの階段を降り、年季の入ったドアを開ける。すると、今日も少しけだるい感じで、珈琲を運ぶ彼女の姿が見えた。
「いた!良かった!」
僕は小さい声で呟く。
「あっ、いらっしゃいませ」
どうやら彼女の方も、昨日来た僕の事を覚えてくれているようだ。僕は、昨日座った端のテーブルに腰掛ける。
「あのすいません。アイスコーヒーをお願いします」
「はい。わかりました。少々お待ちくださいませ」
昨日は、ライカに集中していたので気づかなかったが、改めて彼女を見ると凄く綺麗で、尚且つ可愛い女性だった。歳は、二十歳前後だろうか?いや、大人びているが、もしかしたら高校生かもしれない。髪は肩より少し長いストレート、手入れが行き届いているのであろう艶のある黒髪がとても似合っている。
「お待たせしました。アイスコーヒーです。フレッシュはお使いですか?」
「いえ、ブラックで飲むので必要無いです」
「わかりました。どうぞごゆっくりおくつろぎください」
彼女はトレーを小脇に抱えて厨房の方へ戻っていった。
それから、十五分位が経っただろうか?
アイスコーヒーを飲み干した僕は、彼女がレジの近くにいることを見計らい、伝票を持ってさっと椅子から立ち上がった。
レジに立った彼女に伝票を渡す。彼女が書いた「アイスコーヒー」という文字は、彼女の性格を表しているのか、とても清楚な筆体だった。
代金をトレーに置く。彼女は、レジを打つとレジスターからお釣りを取り出し、そっと僕の手に沿える。ほんの少し指が触れただけなのに、僕の気持ちは何か運命めいたものを感じるのだ。
僕は、古い年季の入ったドアを開けつつ、逃げるようにこう言った。
「伝票の裏を読んでください。待ってます」
そこには、”これはナンパではありません。とてもおかしな話ですが貴方に関係あることです。それをただ伝えたいのです”という僕の正直な気持ちと携帯番号を書いたのだった。
そんなことを思っていると、右手に持っていたスマホが振動し始めた。僕は急いでスマホを見つめる。初めての番号だ。素早く受信スイッチを押す。
「もしもし。妹尾です」
「あの、、、もしかして、さっきアイスコーヒーを頼んだ方ですよね?」
「は、、はい。すみません。驚かせてしまって。レシートの裏にも書いたけど、これはナンパとか、変なゲームとかでもなくて、本当に貴方に伝えたいことがあるんです。だから、話を聞いて欲しいんです」
僕はまくし立てるように言葉を発する。それは、決してスマートではなかったが、彼女を助けなければならないという思いを込めて話をした。もしかしたらそれが少しでも彼女に伝わったのかもしれない。
そう、、、彼女は、最後に「くすっ」と笑った気がした。
そして、一時間後の十九時に新宿三丁目にあるチェーン店の本屋の一階で待ち合わせをすることになったのだ。
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