日記
2021年9月4日(土曜日)
『昨日、二人でお昼を食べている時、柊二君から「明日、時間ある?鎌倉行かない?」と誘われた。勿論、二つ返事で「お願いします」と応えたのだが、彼はどうして私を誘うのだろう?友達が未だに少ない私への同情なのだろうか?それとも、私に少なからず好意があるとか?まさかね、、、。
昨夜は、そんなことを考えながら、どんな服を着ていこうかと少ないレパートリーを着たり脱いだりしているうちに日付が変わっていた。遠足の前の日に小学生が眠れないのと同じで、昨日の私も中々眠りに落ちず、寝返りを打っていたら朝になっていた。
朝、八時、新宿の東口改札で待ち合わせ。
会うなり「凄く似合ってるよ!!」と言ってくれてとても嬉しかったな。
初めての鎌倉、江ノ島ではとてもリラックスして遊ぶことができた。柊二君曰く、以前一人で訪れた時は、凄い人だったそうだが、今日は江ノ電にも座ることも出来たし、鎌倉高校前駅で降りて、踏切と江ノ電と海のコラボ写真も特に並ばなくても撮れた。江ノ島では、生のシラスを初めて食べたけど、醤油との相性が抜群だったなぁ。柊二君がいなかったらご飯お代わりしたかも。
帰りの電車では、歩き疲れたのか二人とも寝てしまって、気がついたら柊二君の肩に私が寄りかかっていたのはちょっと驚いてしまった。わざとではなかったけど、どう思っただろう。積極的な女なんて思われてないよね。
ファミレスで夕飯を食べた後、もう今日が終わってしまうと寂しくなったけど、「また明日ね!」と言われただけで、私は心から幸せな気持ちになったんだよ。
本当に貴方は凄い人です。
柊二君のことを知れば知るほど好きになる。
いつも考えてしまう……。柊二君は、私のことをどう思ってるのだろう?
知りたいけど、はっきり聞きたいけど、まだ、そこまでの勇気はない。でも、いつかは、絶対に聞きたい、だけど、それは今じゃないよね……』
私は、ペンを置き、日記をそっと綴じる。
思い返すと中学二年の時から始めたのだが、習慣とは恐ろしいもので、書かないと中々眠りにつけない。今日起きたことや自分が思ったことなどを紙面に書き込むことで、今日の自分と対峙したような気持ちになるからかもしれない。
今書いている日記帳は、大学に入ってから書き始めているものだ。濃紺の表紙とシンプルなレイアウトがとても気に入っていた。
私は、今日の日記を書き始める前に、一頁目から読み返していた。
不動産屋さんで家賃の相場を聞いて驚いたこと、初めてこの部屋に来た日のこと、応援団のかけ声がとても面白かった入学式のこと、初めての講義が余りにもあっさりしていて驚いたことなど、最初の方こそ長く書いているものの、四月終わりからは、テレビドラマのことや夜に作った料理のこと、そして、母からの電話の内容など正直、どうでもいいような些細なことばかりが、毎日数行だけ並んでいる。
ところが、六月からはその内容がガラッと変わっていた。
髙橋柊二という男子と講義中に知り合ってからは、日記は彼のことで埋め尽くされていた。こんなにも満たされた気持ちで学生生活を過ごす事が出来ているのは、髙橋柊二という彼のおかげだった。
ただ、私は、心からそれを喜べない。あの夜、二十三時に聞こえたあの声はなんだったんだろう?私は、その夜の日記にあの時の言葉を一言一句、丁寧に書いたのだが、今もすぐに声に出して言える。そう、忘れる訳がない。
「明日、心理学概論Aの講座の時、隣のテーブルの端に座っている男子生徒がコンタクトを落とす。そして、君はそれを探す手伝いをすることになる」
あの時、聞こえた声の通りに彼はコンタクトを落とし、私はそれを探す手伝いをした。これがきっかけで、今があるのだ。
最初はいたずらか、もしくは精神的に思い詰められていたことによる幻聴かと思ったが今はそうではないと思っていた。
私は、何かに試されているのだろうか?
もしくは、未来からの声が本当に聞こえているのだろうか?
その時、部屋の空気が変わったような気がした。
「明日、君の体調が悪くなる。但し、保健室は危険だ」
えっ、今なんて!?
私の体調が悪くなる?こんなに元気なのに?保健室?
私は時計を見る。
デジタルの数字が午後十一時を表示していた。
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