中古のカメラ
そのカメラはドイツ製だった。カメラをやってる人ならば一度は憧れるメーカーである
このカメラはデジタルカメラなのに、背面に液晶がない機種だった。撮ってもその場で写真を確認することは出来ない。家でパソコンなどを使わないとどんな風に写ってるかがわからないのだ。まるでフィルムカメラのようだと僕は思った。正直、デジタルカメラの最大の利点を搭載していないカメラとも言える。だけど、だからこそ僕にはしっくりとくるのかもしれない。
しかし、不思議だ。
僕もずっとデジタルカメラを物色していたので、このライカのカメラについてはある程度の知識を持っていた。確か、状態が中程度でも中古価格は、五十万を超えていたと思ったが・・・。
なのに、何故そんな高価なカメラをあの店主は僕に五万円で売ってくれたのであろうか!?
僕は、購入したカメラをすぐに触りたくて、近くにある喫茶店へと向かった。地下へ降りていくとかなり年季の入ったドアが見えてくる。ここには何度も訪れたことがある。とても落ち着く雰囲気で、お気に入りの場所だ。
「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」
新しいアルバイトの女の子だろうか?けだるい感じで聞いてくる。
「はい」
「お煙草は?」
「吸いません」
「では、こちらのテーブルのお好きな場所へどうぞ」
僕は、ライトが薄く当たる端の二人掛けのテーブルに座り、珈琲を注文した。
早速、鞄から買ったライカを取り出す。
外装は、、問題ない。とても綺麗だ。これで中程度か?新古品といっても過言はないくらいとても綺麗だ。僕は、テンションが上がっていた。
ただ、裏蓋のネジを緩め、蓋を外した時、一気に落胆してしまった。何故なら、真鍮のボディーに文字が深く刻まれていたのだ。
「Y.S」
えっ、これはイニシャルなのか!そうだとすれば、まさに自分のイニシャルではないか?
妹尾 優、、、Y.S。
何故、このカメラには僕のイニシャルが刻まれているのだろう?
僕は頭をフル回転させ考えていた。あの泊師堂の店主は、だから僕の名前を聞いたのか?イニシャルが合っているから販売してくれたのか?イニシャルが刻まれているから安いのか?とにかく訳が分からなかった。
「お待たせ致しました。珈琲をお持ち致しました」
さっき案内をしてくれた女の子がテーブルにカップを置く。
僕は何気なしにカメラを触っていたのだが、つい間違ってシャッターを押してしまったようだ。
「カッ・・・シャッ」
この喫茶店は、薄い暖色のスポットライトを壁に当てる間接照明となっているのでとても暗い。だから、シャッタースピードはすごく遅かった。
女の子を盗撮した訳ではないし、しかも不可抗力だ。そして、もし撮れていたとしてもどうせブレブレだろうと思った僕は特に気にしてなかった。
その後も珈琲を飲みながら、テーブルに置いたライカを眺める。掘られているイニシャルで一旦落胆したものの、精巧な作りに僕はやはりうっとりしてしまう。
「凄いなぁ。質感が半端ない。イニシャルの傷なんて関係無いか。裏蓋を閉めれば見えないし・・・」
独り言を言った瞬間。
カメラの位置が少しだけ動き、「カシャッ」と乾いた音が響いた。
えっ?僕は触ってないのに・・・。
レンズの方向を見ると、先ほどの女の子が違う客に珈琲を運んでいる所だった。
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