実行された凶行

 あれから、どれだけ時間が経っただろう。

 私は、まだ座ったままわなわなと震えていた。


「怖い、、、。もう、全て柊二君に話をしよう」


 何故もっと早く相談しなかったのか?

 私は後悔しながらも震える手でスマホをカバンから取り出す。



 その瞬間、またチャイムがなった。

 時計を見ると二十時を少し過ぎたところだった。


 また、なにかの売り込みなのだろうか?それとも、無理やり押し入って私の命を狙う誰かなのか!?

 一瞬躊躇したものの、私は強い口調で「どなたですか?」と声を出す。


「あの、遅くにごめんね。近くまで来たので、ちょっと寄ってみたんだ」


 

 その声は、坂田美穂だった。


私は、少しだけドアを開け、彼女の顔を確認した後、ドアチェーンを外した。


「あっ、どうしたの?どうぞ、中に入って」

「うん、ごめんね。近くまで来たっていうのは嘘なんだ。ちょっと話がしたくて」

「いいよ。実は、私も一人だと心細かったけん。ほら、そこに座って、、、えっ!?」


 美穂を見ると、両手で刃物を握っている。私は、凍り付いて動けなくなっていた。



「美穂ちゃん、、、何?何の冗談なの?や、、やめて、、驚かさないでよ」

「香澄、、私はいたって真面目だよ。そう、今日で終わらせようと思ってるんだ」

「な、なにを!?私にはわからないっ!とにかくやめてよ!!!」

「うるさいなぁ。あのさ、、今まで何度か警告してあげたつもりだったけど、それでも柊二と付き合ってるよね。あなたは、柊二を私から奪っていったんだ。だから、今日、あんたはその罪を償うことになるのよ」

「柊二君?柊二君と美穂ちゃんは何もないんでしょう?そう言ってたじゃない!!」

「ふ〜ん。何にもないか・・・。勝者の言葉だね。それってムカつくんだよ。柊二は大学に入ってからずっと同じグループで、私がもっとも近くにいたんだ。なのに、いつも一人で寂しいみたいなオーラを纏って柊二を振り向かせるなんて、ほんとせこいよね」

「そんなことないけん!!!」

「はっ、あんたみたいな田舎娘は柊二には合わないよ。だから、今日はもう自分の手で決着つけるんだ」

「や、やめてー!!!!」


 刃物を両手で強く握り直した美穂は香澄に向かってナイフを突き刺す。

鋭い刃物の先が香澄の胸に刺さった。


「ぐっ、、、あ、、、、、痛いっ、、、痛い・・・・・・」


その時だった、勢いよくドアがあいて二人の男性が部屋に入ってきた。

柊二君といつの日か私を尾行していたあの視線の鋭い男性だった。


「香澄ーー!!香澄ーー!!! 幸田刑事!! 坂田が、、坂田が犯人です」


「坂田美穂、、殺人未遂で現行犯逮捕する」


 幸田は、バタバタと暴れている坂田を後ろから羽交い締めにし押さえつける。もう柊二が知っている坂田美穂の顔では無かった。目が血走りつり上がっている。何かに呪われているようなそんな表情だった。

 ずっと香澄を狙っていた犯人が、まさか坂田とは・・・。流石の柊二も考えもしなかった。



 柊二は、香澄に駆けより強く手を握る。

 そして、刺さったままのナイフを動かないように固定する。今、ここでナイフを抜けば出血がさらに酷くなることを柊二はネットで調べていた。

 胸には刺さってはいるが、柊二がプレゼントしたティアドロップ型のペンダントが心臓に刺さるのを防いでくれたようだ。


 スマホを取り出し、救急車を呼ぶ。

 何度も練習して覚えた香澄の住所を電話に出た職員に説明すると、五分で到着するとの返事だった。


「香澄。頑張ろうな。大丈夫。あと五分で救急車が来る。そして、僕もずっとついてる。もう大丈夫。だから、意識をしっかり持て。いいな。香澄!!!」


「うん、、柊二君、、本当にありがとう……」


 私は、その一言を発した後、意識を失ってしまった。





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