柊二の後悔
香澄を刺した人間はまだ捕まっていない。
二本の管が繋がった腕はとても痩せてしまった。どうしてこんなことになったのだろう。僕は無意識のうちにあの日のことを何度も何度も思い出す。そして、なぜあの時、香澄のそばにいなかったのか。僕がいればこんなことにはならなかったのに……。ただ、後悔だけがつのるばかりだった。
香澄のバイト仲間の真琴さんから、香澄が刺されたと連絡を受けた時、僕は家庭教師のバイトからアパートに戻る途中だった。
「なに!!それで香澄は!?大丈夫なのか!?」
「正直、わからない。なんでも叫び声を聞いた隣の住民から警察に連絡があって、、。警察が部屋に入った時には香澄は大量の出血で意識がない状態だったみたい。ねぇ、ねぇ、香澄、、どうなるんだろう、、死んじゃうかも、、、」
泣きじゃくって言葉にならない。
「おい!落ち着け!!それで、今香澄は何処にいるんだ」
「うん。ごめん。私がしっかりしないと。えっとね、緊急で入ったみたいだから、新宿の都立総合病院に運ばれたって。今、私も向かってる」
「わかった。ありがとう。僕もすぐに行く」
僕は妙に落ち着いていた。いや、落ち着いているように見えて激しく動揺していた。身体中から冷や汗が吹き出ている。もし、香澄が死んだらどうなる!?僕の未来にはいつも香澄がいると勝手に思っていた。まさか、こんなことになろうとは……。
これまでも、香澄にはおかしなことが起きていた。僕が告白をした日も駅のホームで転落しそうになった。そして、誰かにつけられていると僕に助けを求めてきたこともあった。そして、夜に変な電話がかかって来るようになり、先週は郵便受けが荒らされた。
これだけ危険信号が出ていたのに僕は様子を見ようとしていたのだ。ただ単純に、香澄に迫る危険に対し、僕が怖がっていただけなのかもしれない。自分の判断ミスがここまで酷い状況を引き起こすなんて夢にも思ってなかった。
「どうして、どうして!!!」
僕は、絶叫しながら駅まで走っていた。
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