眩しい未来
「大丈夫!?怪我は無い?」
彼女は、ショックで、まだ言葉を発することが出来ないようだ。
「良かった。本当に良かった」
自分も彼女も死なずにすんだこと、それを自分が成し遂げたことで、僕は少なからず興奮していた。
実は、冷静に対応出来たのは、未来からの手紙のおかげだった。
この踏切で事故が起きる事を信じた僕は、車を走らせる前に、スマホでこの踏切の非常信号のスイッチの位置を確認し、車の助手席に付いている発煙筒を外し、すぐに持ち出せるようにしていたのだ。
もしかして、たったそれだけのことで、過去を変えることが出来たのだろうか? いや、逆にたったそれだけだったからこそ未来に歪みを起こすのを最小限にできたのかもしれない。
「高梨優佳さんだね!?」
「えっ!?何故、私の名前を知っているんですか?」
彼女は、目を見開いて僕を見つめている。
「ほら、これだよ」
僕は、未来から来た手紙をもう一度開いた。
するとどうだ。
手紙に書かれていた文字が一文字ずつゆっくりと消えはじめたのだ。
ゆっくりとゆっくりと、、
綺麗に書かれていた文字が消えていく。
未来から来たという手紙は、目的を果たすと自動的に消えていくのかもしれない。
彼女は信じられないという表情で、その手紙を見ている。
そして、僕の腕の中で意識を失った。
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宮村和孝 様
先日は、大変お世話になりました。
そして、私が送った手紙を信じてくれて、本当に感謝致します。
今回は、貴方自身にこの手紙を送ることが出来ました。
時空間レターシステムは日々進化しているようです。
あれから、私の日々は幸せの毎日でした。
あの事故からすぐに行われた卒業式では、生徒代表で卒業証書を受け取りました。本来ならば、貴方を事故で亡くし、鬱屈した日々を送ることになっていたのに、残り少ない高校生活を友人達と楽しめたのは、貴方のおかげです。
その後、私は、貴方が通っていた大学に合格し、今思い出しても、甘酸っぱいけど心地よい学生生活を送ることが出来ました。
貴方は、とても素敵な人です。
何より心が温かいのです。
人と接するのは正直言って下手だったけど、そんな貴方がいたからこそ私は生きているのです。どうか自信を持って下さい。
あの事故を思い返すと、何年経っても怖くて涙が出て来ます。
どうやっても自転車が抜けない。電車が少しずつ自分に近づいてくる……。
もはや絶望しかない状況の中、貴方が私を救い出してくれたのです。
あれだけ、踏切に入っては駄目だとお伝えしたのに……。
でも、貴方は来てくれた。
そして、見事に私を助けてくれた。そして、何よりも貴方が生きていること、、それこそが、私の幸せなのです。
それからの貴方は、私と同じ時間を過ごしてくれたのですから、この「時空間レターシステム」を誰よりも早く使って良かったと心から思っています。
もうこれ以上、未来のことは書きません。
ただ、あと一つだけ……。
貴方はこれから少しずつ変わっていきます。
そして、いつも貴方の近くにいた彼女と結婚し、子供にも恵まれ、孫達にも慕われる素敵な人になります。
そう、貴方には素敵な未来が待っています。
この度は、本当にありがとうございました。
貴方が信じてくれたことが何より私には嬉しいのです。
でも、これからは、どうぞ無理をしないで下さい。
本当にありがとう。
宮村優佳
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終わり(神奈川県葉山町森戸海岸)
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