狙われている?
クリスマスの余韻に浸る間もなく新しい年を迎えた。
私と柊二君は年齢の割にはプラトニックな付き合いをしていた。まだ、手を繋ぐだけ……。もの足らない気持ちは少しあるものの、彼が私のことを大事にしてくれていることは身体全体で感じていた。
私たちのペースがあるんだと思う。だからこれからも彼を信じて一緒に過ごしていきたい。初詣でごった返している鬼子母神の前で強く願った。
そして、二月になり大学は春期休暇となった。土曜日の朝、私は、今年から始めたカフェでのアルバイトに向かう準備をしていた。
「おーい、ドアに当てないように気を付けろよ」
玄関先から聞こえてきたのは、どうやら引っ越し業社の声のようだ。しばらく誰も入居しなかった隣室に誰かが入るのだろうか?引っ越して来る人はどんな人なんだろう!?良い人だったらいいけど、、、そんな事を思いながらドアの鍵を閉め階段を降りていく。
まだ肌を刺すような気温が続いている。私はマフラーをぎゅっと締め直し、都電荒川線早稲田駅近くのカフェ・ラスクへと早歩きで向かった。
「ねぇ、あの窓側に座っている男の人、なんだか香澄のことをずっと見てない!?」
同じ時期に働き出した真琴が小さい声で私に呟く。私はさりげなくその方向を見る。そう言われれば確かに私達の方を見ている気がする。いや、気のせいだ。手持ち無沙汰な時は店のスタッフの動作を見る時もあると思う。真琴には、様子を見ようよ、気のせいだと思うよと話をした。
私達は、いつものようにコーヒーをドリップしたり、サンドウィッチをお皿に飾ったり、パンケーキを焼いたりと忙しく動き回っていた。
「あー!疲れたね。そういえば、例の男の人、気がついたらいなくなってたね。やっぱり気のせいだったね」
真琴に言われ、窓側の席を見る。
この日はとても忙しく、私たちは食事休憩もそこそこにずっと慌ただしく働いていたこともあり、例の男性のことは途中からあまり意識していなかったのだが、いつの間にか消えていたようだ。良かった。やはり、考え過ぎだった。
「お先に失礼します。また、明日」
私は遅番のスタッフに挨拶をし、店をでる。そして、近くのスーパーで夕飯の買い物をした後、神田川沿いに歩いて家に向かった。
三月になると桜がまた満開になるんだなぁと木々を眺める。何気なしに反対側の川沿いの道を見た途端、ぎゅっと心がきしんだ。
あの人、、カフェ・ラスクにいた男の人だ。あの細長の顔立ち、そして一点を見つめる視線は間違い無くそうに違いない。もしかして、私をつけているのだろうか?たまたまなのだろうか・・・。
私は少しだけスピードを上げ早歩きで家に向かう。すると、その男もスピードを上げてついてくるのだ。私はパニックになりそうな心を抑えてショルダーバックからスマホを取り出すと柊二君に電話を掛けた。
「お疲れ様ー!もう、バイト終わったんか!?」
彼の声を聞くだけで安心できるのは本当に不思議だ。だが、いまはそんな悠長な事を思ってる時ではない。
「あの、、柊二くん、、私、知らない男につけられているような気がする」
「なにっ!!!今、何処!?コンビニとかスーパーとか人がいるところにすぐに入って。急いで行くから!」
私のアパートまでは、あと少しだったのだが、柊二君に言われた通りコンビニに入りイートインコーナーでカフェラテを飲んで柊二君が来るのを待っていた。
レジの方を見る。
なんと、あの男が弁当を持ちレジに並んでいるではないか。そして、私の方を見て、ニヤリと笑ったような気がした。
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