「ミコの妖異幻怪 その②」

 世界汚染。

 それは一定区間の世界を一個人の能力と意思によって制圧、汚染してしまう。

 それは魔術における、空間に魔術的効果を付与するような結界とは、似て非なる。


 言わば、内的世界を外的世界にしてしまう神の御業。悪魔の所業。


 故に、その世界に入った者は皆、ルールを強制される。


ミコ「そうか、そういう事か」


 ミコは一歩たりとも、その場から動けない。

 空間自体が『手』。

 それは、既に彼女の体は、彼に握られているということである。

 動けなくて当然。

 彼女の一切の肉体動作を、彼は操ることが出来るのである。


 自身の指を動かすように簡単なことだ。


ショウ「取った……!!」


 生殺与奪の権は此方にある。

 そう思うことこそ命取り。

 忘れるな。いま、お前の目の前にいるソイツは、既に、人間では無いことを。


 ショウの世界は、ガラリと反転した。


 そこに、手は無い。

 打つべき手もなければ、出すべき手もない。

 そこに、色はない。


 あるのはただ、認識のみである。


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ミコ「世界汚染・『鏡煌誰彼Rainbow・Coat』」


 世界は、既に無骨な風景に。あの基地の廊下に戻っていた。


 ミコが、何をしたのか。

 単純明快。彼の心の中に、自分のセカイをぶち込んだのである。彼だけに起こる内的世界の汚染。その範囲は狭いが、効果は絶大だ。


 一秒以下で、精神破壊を引き起こし廃人と化す世界汚染能力。しかしミコは、彼に峰打ちを打った。

 彼はいま、気を失っているだけだ。


ミコ「さて、先を急ぐか──────」


 実にあっけの無い決着だった。勝利したミコは彼を置き去りにして、先を進む。


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ミケ「なんか、同じところぐるぐる回ってない?」


アガサ「つーか、地下の基地に森ってどういうことだよ」


 その頃、ミケとアガサは森に居た。

 現在地、基地の地下3階。……のはずなのだが、そこは木々の生い茂る森だった。足を跳ね返す土の感触も、葉っぱの匂いも、まるっきり本物。あまりにも沢山木があるので、絶賛道に迷っていた。


ミケ「……敵、いるよね」


アガサ「ああ。たった一人だけとは、勇敢なのか無謀なのか――――!!」


 アガサは背後に打ち下ろしの左拳を振りかぶる。

 すると、クッションの手応えがあった。

 人間の目には見えないが、二人にはそれが見えた。


ナイトキャップ「……わかるんだ。貴方も、現実改変能力者」

ミケ「その呼び方、やめない?名前が長くてややこしいよ」


 出てきたのは、ナイトキャップを被った、パジャマの女性。なんと、アガサの一撃を、その手に持った枕、たった一つで防いだのだ。

 

アガサ「ミケ、分かってるな」

ミケ「うん」


 言うまでもなく、ミケは道も分からない森の中を突き進む。走り抜ける。


ナイトキャップ「……馬鹿だねこの全域は私……ララの領域。たとえ『母体』とはいえ、通れるわけがない」

 

 ララと名乗ったナイトキャップの彼女は、ミケを止めることもせず、目の前に立ち塞がるアガサを真っ直ぐに見据えている。


アガサ「そうか?アイツは筋金入りの自由人だぜ」

ララ「なにそれ。バカみたい」

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