「ミケと疾風迅雷 ① 」

しっぷうじんらい【疾風迅雷】

強い風とはげしいかみなり。また比喩的に、非常にすばやくすさまじいこと。


「もしもしお姉ちゃん?ミケだよ」

「今日、友達とお泊まり会するの。」

「いつ帰るか?あ、えっと……な〜んか、けっこー長くなりそうでさ……」


 適当な話をつける、というのはどうにも難しいものですね。お姉ちゃんから父に伝えておくように言ったのですが、真実を伝える訳にはいかず、言葉がツギハギになっていました。

 ……もしかしたら嘘がバレたかもしれませんが、許可を貰えずとも戻るつもりはありません。

研究室生活一日目。ソファの寝心地は最悪です。

「2人共、起きるのが遅いぞ」

「うざ…」

 カナはすっかり目がぱっちりと覚醒しています。カナはどうせ今日も6時起きです。ミケは知っていました。

「カナ君……君は一体何時に起きているんだ…?」

「今日は5時半きっかりに起きた」

 6時起きより酷かったようです。

 カナの作った朝ご飯を食べ、三人仲良く(?)登校します。

 なるほど、他人の家から登校というのは、かなり新鮮な景色です。見慣れているはずの建物も、違うアングルから見ると新しく感じます。ミケの頭が単純なのも加味されてるかもしれませんが。

「……そういえばさ、ミケ」

「ん?」

「いや、ミケの脚、昨日みたいに激しくしても、全然傷んでないんだなってさ。」

 そういえば、そうです。あんなにジャンプしたり、走ったりしたのは、本当に何ヶ月ぶりでしょう。

「……あー、そうねぇ。意外ともう復活出来ちゃったりして。」

「ミケ君、以前は水泳部だったと聞いているよ」

「ふうん。知ってたんだ。そういえば、カナも昔は演劇部とかやってたよねぇ」

「やめてくれ」



 雑談は高校につく頃には終わり、登校をミケ達は終えました。

「おっはよー!噂の転校生とデートとは、カナ君も隅におけませんなぁ〜?」

「……」

 鎖錨ネネは、いつも通りの様子でした。ちょっぴり安心感。

カナはネネのことがちょっと苦手みたいです。ミケと同じような感じだと思うのですが。……やっぱりちょっと違う?

「今日も元気だねぇ、ネネ」

「おうともよぅっ!!」


 登校を終えても、当たり前ですが極力三人で行動をするよう心がけていました。幸い同じ教室であったので、別行動にはなりづらい(トイレはカナは着いて来れないのでさすがに別行動ですが)のは助かりました。

そして、下校の時間……


「ミケ君の交友関係の広さには惚れ惚れするものがあるねぇ。友達……というものはどういうふうに作るのかな?」

「悲しいことを平気で言うなよな……」

「ミコは近寄り難いオーラが滲み出てるからね〜。」

 緊張感もなく談笑していますが、この三人での登校体制が異常であることを、忘れてはいけません。

絶対忘れてはいけなかったのに……

「そうだ。カナ、アガサが帰ってくるって。」

「ゲェッ!?あ、あいつが……!?」

「アガサ……?アガサというのは、どういう人物なんだい?」

「アガサってのは……銀髪で」

「200cm以上もあって〜」

「全てを超越した変態で」

「「超絶美少女の生けるセーラー服伝説ッ!!」」

 耳元からかなり高めから聞こえるのに、拡声器でも使ったのかと言うくらいのデカい、ハスキーな少年声。

 振り向くと、首が痛くなるほどの巨躯に、抜群のプロポーション。200cmの大人身長に似合わない、サイドハーフテールと言う子供じみた髪型。とても美とは思えないそのなりは、昔見た怪獣映画を彷彿とさせる威圧感を醸し出している。

「「阿笠 亜蓮とはアタシのことよッ!!」」

「ギャーッ!!」

姫乃カナは驚愕と恐怖で情けない声を出した。


「アガサーっ!!会いたかったーっ!!」

「「うおおおおぉ拙者もよーっ!!」」

共に全速力で走り出す。

そのまま2人共抱擁するかとおもいきや。

「「オオオオオォォォォォォッッ!!」」

「ラァァァッ!!」

衝撃波が起こるほどのド迫力ストレート。拳と拳、パワーとパワーがガッチリと噛み合い、逆に傷一つつかない程のコンビネーション。

「「成長したな……ミケランジェロ」」

「そっちこそ……!!アガサ・クリスティ」

そう。

ミケとアガサは今、

カナとミコを置き去りにしたまま、別に時空に住んでいました。

「カナ、帰ろうか」

「……ああ。」

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