「ミケの勇往邁進 その①」
カナ「じゃあ、行くぞ──────」
カナは、イブキを乗せて疾駆する。目指すは、50m先、トロイの木馬でも入りそうな大きな大きな門である。
今現在のスピードなら、恐らく体感で5秒はかからない──────
それを阻むは四人の少年少女。
その中で、先に動いたのはパーカーを着た中性的な少年。しかしそのムーブというものは、ただ右手をカナにかざすような物だけで、傍から見れば特段警戒するモノのようには見えないだろう。
しかし、カナには視えていた。
その右手は、空間を掴む右手。接触すれば不可逆の捕縛を約束される。
その不可視かつ不可逆的な攻撃を、カナは見えた上で、躱す。
しかし、躱すのも読まれていた。
躱した先に立ち塞がるのはローブの女。
その女はローブの中身を、その腹の中身をここで、ぱっくりとぶちまける。
ローブの女「馬鹿ね、ここで死になさい!──────」
その中身は、深淵だ。
黒く、暗く、尚暗く、光速すら吸い込むほどの、超光速の吸引。引きずり込まれればその瞬間、カナの五体は折り紙のように折りたたまれた上で、何も無い彼女な
──────しかし、カナの能力はそれを良しとしなかった。
カナは厳重に、二度と彼女が誰かを傷つけないように、しっかりと、彼女の腹に防護壁を貼り付けた。
その、誰もが意識すら出来ない鮮やかな手練は、まさに達人の所業。
ローブの女「な──────」
ローブの女がそれを認識する前に早く。その上空を乗り越えていく。
上空に舞い上がる彼の五体を、しかし、吹っ飛ばされていたスーツ野郎と、ナイトキャップの女は見逃さなかった。
ナイトキャップ「させない……!」
スーツ「くたばれ、馬鹿が──────!!」
スーツの彼は魔力強化された45口径の拳銃にて、カナを狙撃する。ギリギリ有効射程外。
それでも、彼の狙いは外れない。
彼の弾丸は音速を超えて、カナの首元を求めて空を駆ける。
それは、確かに防護壁によって弾かれるはずだった。それは当然のことだ。カナの能力は防護壁。相手を吹き飛ばす衝撃波は、それの抗力による副産物でしかない。
その鉄壁を誇る防護壁によって、難なく弾かれるはずだった。
しかし、相手は因果を繰る者──────
一度狙いを定めた蛇からは、逃れられない。
彼の能力は、その双眸にある。
瞳で認識したものに標準を合わせ、それ単体に一つの結果を作る。
そう。『命中した』という結果を──────
その壁を突破って、因果の塊はその定まれた結果を果たすために更に加速する!!
が、駄目。未来が決定しているのはあくまで『命中』の部分。
カナの反応は、防護壁を破られた時点でもう既に弾を防ぐかもしれない。
実弾を、自らの腕で接触した瞬間に、衝撃波で弾く。
可能なはずだ。
しかしそれを、ナイトキャップの女の硝煙がそうはさせない。
カナ「この煙は──────まずっ…!」
脳を直接揺さぶる幻覚は、いとも容易くカナの三半規管を殺して見せた。
カナの脳天を、バリアごと貫く姿をスーツの彼は幻視した。
しかし。
スーツ「んな……馬鹿な……!?」
カナは薄皮一枚で、それを止めてしまった。
そう。防護壁は外壁だけではなかった。その肉体の内部にも、二重にも三重にもなって既に仕込まれていたのだ。
まるで重みのない重装甲。羽のように軽く、鉄のように硬い。
ナイトキャップ「なんで止まらないの……!?」
カナは真っ直ぐ走る。目的地は既に、まっすぐと決めていたのだから、真っ直ぐだ。
しかし、カナの邁進はここで止まる。
──────だが、彼には止まる理由がない。最大の敵である来栖が立ち塞がったところで、彼は止まることを忘却したのだから。
しかし、彼は止まる。
なぜなら、その首を、来栖の一閃によって吹き飛ばされたから。
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そんなこんなで。
ミケ、アガサ、ミコの三人は、クオーレ本拠地、その真正面も真正面に来ていたのだった。
空間転移によって突然現れた3人の刺客。発見されるのは必至。ならば──────
ミケ「行くぞぉぉっ!!」
アガサ「ウッシャァァァッ!!」
目撃者を全員ぶっ飛ばせばいい。
そんな脳みそ筋肉な発想のもと、放たれた矢のごとく先陣に躍り出た二人は、侵入者発見の伝言が伝わるよりも早く、マフィア兵共をその堰力で転がしていく。
マフィアとはいえ、最近できたような団。
見張りの数なぞたかが知れており、数秒でその周辺を制圧してしまった。
神速を駆け、光にも並ぶ彼女らにとって、兵士十数人は毛ほどの戦力にもならないのである。
ミコ「強い…!」
反射的に、口から出た言葉だった。
ミケの身体能力は元々強い。魔術的な意味ではなく、肉体としての強度が人智を超えている。その上に知性の力のブーストもあり、超人を超えたパワーとスピードを併せ持つバケモノと化している。
しかしそれは問題では無い。問題なのは、アガサの脅威的な戦闘力の上昇傾向にある。アガサの能力はスピード特化であるが、総合的に見ればイブキと負けずとも劣らない能力を持つ。
本来の彼女ならばあのように、下っ端とはいえ魔力強化された躯体を持ち武装しているマフィア兵を一網打尽にするのは、いくら彼女でも難しいところだ。
それを彼女は、本気にもせずまるで息をするように、彼らの約半数を蹴飛ばして見せた。
ミコ「彼女もまた、目覚めたという訳か。」
ミケ「ミコ、さっさと行くよー?」
ミケとアガサはすでに内部に切り込んでいる様子。
ああ、とミコは軽い返事をしながら、散らばる兵どもに見向きもせずに、ミケの後へ続いて行った。
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